33 大平(だいひら)の狸と柳(やなぎ)兵衛(ひょうえ)狐誰言うとなく、大平を通っど、魚盗らっだ。それが柳兵衛の仕業だろう。こういうわけで、きわめて人気悪(わ)れぐなった。痩せても枯れても柳兵衛、ほだなチャチな化け方やいたずらしないんだど。大名行列さくい込んだり、あるいはすばらしい金持ちさ入っては少しは頂くげんど、庶民ばいじめる柳兵衛でないど。「とんでもない話だ、よし、んだら大平さ行って掛合って来(こ)んなね」 て、こういうわけで、ピョンピョンはねて大平さ行って、 「おいおい、狸どの」 「おう、何だい。柳兵衛君か」 「いや、君も最近腕上げたそうだな」 「いやいや、ほんでないっだな」 「ときにどうだ。一生一代、おれと化けくらべしねが」 「うん、はいつは面白いがんべ、どういう風にする」 「んでは、おれ一つ課題出す。いつのいつか、おれが秋田の殿さまに化けてここ行列組んで下っから、どれがおれだか見はらかしたら、お前の勝、はいつ見(め)けらんねがったら、おれの勝だ」 「しかと分った」 ほしたら、何月何日、「下に下に」ていうわけで、大名行列が来た。大平山からはいつを見っだ狸ぁ、いきなり若侍に化けてピョンピョン跳ねて行って、行列さ行って、殿さまの篭ばいきなり開けて、 「いや、うまく化けだねぇ」 て言うど、 「無礼者!」 て、殿さまから抜き打ちでバッサリやらっだ。ギャーッというてひっくり返ったのが大平の狸であった。 んだから、何日のいつか、その秋田の殿さまが行列組んでお通りになるていうことを知ってだだけ、柳兵衛の方が神通力上だったということだど。それから大平さ悪い狸は出なかったど。 ところが、ある狩人が「口(くち)ハッパ」仕掛けていたところが、向うから坊さんやって来た。 「あらら、何だべ、あの坊さん引掛るなて、今行って、坊さま、こっちほんない」 て言うたかと思ったれば、クラッとむじった。一端危険を感じて坊さま戻った。ところが腹へっていたがして、油揚げの匂いで何とも仕様なくて、また戻った。杖の先に見えたのが実は口端だった。ほして油揚さ杖の先が行ったと思ったら、バンと音して、もんどり打って引っくり返ったのが、やっぱりすばらしい大狐だったど。それが柳兵衛だったという話。 |
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