31 タコに骨なし

 むかし、竜宮の乙姫さまがシャク起した。バダバダ、バダバダ腹痛起した。いくら薬のんでも、何しても治らね。海の中の魚たちの会議が毎日ひらかれっけんども、何とも仕様ない。んで、ある易者に聞いてみたらば、猿の生肝飲めばすぐ治る。
「ああ、そうか、猿の生肝」
 ところが、猿ていうのは陸さ住んでいるもんだから、魚連中では、それは得がたい。求めらんない。何かええ考えないか、海も陸も両方生息できるタコにお願いしたらええがんべていうわけで、タコさんに白羽の矢が立ったわけだ。
「こういうわけで一つお願いします。お姫さまの一生の一大事だから仕方ない」
 と言うわけで、猿ガ島さタコが行ったわけだ。いろいろ頭(こうべ)をめぐらして考えてそして猿ガ島さ上がったら、猿だ、春の陽ざし浴びながら、嬉々としてたわむれていたわけだ。そこさ登って行って、
「やぁやぁ、猿君、実は今から浦島太郎と同じに竜宮さ案内すっから、おれと一緒に竜宮さ行がねが、おれさ掴まっていっさえすっど、竜宮さ行ぐなだから、おれぁ案内すっから」
 したれば一匹の猿は、
「いゃ、おれぁ竜宮さなの行がんたてええ、こっから離れっだくないもぁ」
 だが、木の上に上っていた猿は、
「はいつぁ面白いべ、おれぁ一つ見せてもらうがな」
 そういう風になった。「お願いします」。しめしめていうわけで、のせたんだど。ほして、海の中スイスイ、スイスイのせて行った。猿は海の景色なて見たことないんだから、そっち見ては珍しい、こっち見ては珍らしい。そだいしているうち、大きい黒い島が現われた。これはしまったと思ってタコが一生懸命に泳いだげんども敵わねがった。よくよく傍まで来た。そうすっどその島だと思ったのが、ドドッと塩吹いた。はいつ見た猿はぶったまげた。そして、
「いや、ぶったまげた。胆つぶした」
 ていうど、胆つぶした猿には用なかったずもぁ。そしてそれを島さ返して、乙姫さまのどこさ行って、
「骨折っても、猿の生き肝は駄目でした」
 て言うて、そん時骨折ったのではぁ、以来骨というのはタコにはないがったはぁ。ドンピンカラリン、スッカラリン。
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