30 桑原桑原むかし、子どもだ。お宮さまの前で遊んでだら、一天にわかにかき曇り、そうしてバリバリ、バリバリ、ピカピカ、ドシャン。すばらしい雷さま鳴って、たちまち明るくなったど。「ああ、恐(お)っかながった。そこらさ雷さま落っだんねが」 て、して見たれば、そのオミ坂の階段どこさ、長い箱落っでだけて。 「何の箱だべこら」。 て開けてみたれば、雷さまの太鼓のバチだったけど。ほれからちょっと来てみたれば、四角な箱落っでだ。何だべと思って開けてみたれば、嘘こいだ人から抜いた舌(べろ)だけど。ほれから少し下って来たれば、また箱落っでだ。こんどは丸こい箱落っでだ。そいつ開けてみたれば、ヘソ抜いたヘソだったど。 「いやいや、こんどヘソも落して行った」 ていたれば、間もなくこっちゃ来たれば、うなった者いだっけ。 「誰か、うなった」 て言うたれば、そいつぁ雷さま腰打って動かんねがったど。そしてはいつ、村長さんさ教えだらば、 「雷さまざぁ、火の神さまだから、手で触(さわ)んな」 「なぜしたら、ええがんべ」 「ほいつぁ、井戸中さ入っでしまえ」 そして、みんなして雷さまば抑えて井戸の中さ押込めでしまった。したら、雷さま言うたそうだ。 「何とか助けてけらっしゃい」 「うん、助けて呉っけんども、今度から、あだいドンガラバンガラって鳴らねが」 「いやいや、鳴らね、鳴らね」 「本当だが」 「本当だ」 「ここどこだか知ってだが、ここは桑原ていうどこだ。よっく憶えてろ」 桑原ていう部落さ雷さま落っだった。ひっぽろぎ落ちた。ところがはいつ忘(わ)せではぁ、雷さま、こんど空さ行ってから、たまたま桑原さ来て、ゴロゴロピカピカ鳴った。そうすっど、桑原の人ぁごしゃえで、下から、 「クワバラ、クワバラ」 て言うてやっど、 「ああ、あそこさ行かんね、井戸さ入れられる」 て逃げたもんだで、んだから今でも雷さま鳴っど「桑原、桑原」て言うんだど。 |
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