14 今若童子

 むかしとんとんあったんだけど。
 むかしむかし、難波の方の国さ、今若ていう人いだんだけど。その人はちっちゃこいときから器量よしで器量よしで、年頃になったれば、「今若、今若」って皆騒がっで、町さ行っても、人に埋まるほど、「今若、今若」て言われるもんだから、あんまりもてて、もてて、ししゃますだから(困る)今若丸が京都の都さ行って、鬼の面買って来て、かぶったんだど。んだら今若て言わんねべはぁと思って…。
 ところが、鬼の面を作った人、面打ちした人が日本一の名人アンアミという人だったんだど。んだもんだから、それが魂がこもっているもんだから、今若かぶった鬼の面が生き面になって、ピタッと今若の顔さふっついてしまったんだどはぁ。ほして、都にいることできなくてはぁ、山の中さ入って行ってしまったんだけどはぁ。
 して、今度、ある晩、羅生門というどこさ鬼出だっけ。
「鬼なの、いねべな。頼光とその五人衆にみなやらっでしまったていう話だげんど、酒呑童子ていうの、みな首はねらっで殺さっだていう話きいっだんだげんど、いまいたべか」
 ていう話になったんだど。ほして大江山さ鬼退治に行ぐときには、一に頼光、二に渡辺の綱、三に貞光、四に季武、五に宝生、六に金時だったど。ところが、
「羅生門に夜な夜な鬼が出て、女をかっさらって行ったり、人のもの盗ったりする。ほんではうまくないから、誰か退治する者いねが」
 そういう風なことになって、
「おれが退治してみせる」
 ていうので、渡辺の綱が夜、羅生門さ行ったんだど。そうしたら、生ぬるい風と共に、すばらしい鬼が髪ふり乱して渡辺の綱さ掛って来たんだど。二三回切り合った。なんぼしても勝負つかね。鬼も必死だ。渡辺の綱も非常につよい侍だったから、なかなか勝負つかねくて、そうしているうちに、渡辺の綱のカブドさ鬼の手がにゅっとかかってしまって、無理無理と上さ釣り上げらっだんだど。渡辺の綱、これではいかんと思って、その腕ば刀でエッというど、ぷっつり切っでしまったんだど。そうすっど鬼はぎぁーっと言って、そっからいづこへとも雲呼ばってはぁ。
「まず、これは人さ見せらんね、見せっど何だかんだてうるさいから…」
 て、石の唐戸さ、びっしっと入っでしまってはぁ、ほして石で作った室内さ入っでしまってはぁ、そして誰さも見せねごどにしったんだど。
 ところが、年寄った婆んちゃがよぼよぼて来たけぁ、渡辺の綱のどころさ来て、
「実はおれは、お前の乳母だ。鬼の手とったていう世間の話聞いて来たげんども、何とかおれさ見せていただかんねべか」
 んだげんど、渡辺の綱、「それほどのものでないから」て。
「いや、おれも、いまつうとしか生きねのだから、冥途の土産に何とか見せていただきたい。何とか見せていただきたい」
 て言うので、渡辺の綱も、
「ほんでは仕方ない」
 と思って、その石の唐戸のフタ開けて見せたれば、ほの鬼の手いきなり見っだけぁ、乳母だと思ったけぁ、口は耳まで割っで、ザンギリかぶった髪、ほしたらほいつぁ今若なんだけど。
 ほしてほの腕取っかえし来たのよ。その腕取るより、窓ぱっとぶち抜けてはぁ、空さ逃げて行ってしまったんだど。ほして、
「ほいつぁ、渡辺の綱、鬼の腕とったの、なんのて言うげんども嘘だべな、狂言だったべな」
 ていう話になったんだど。んだげんども、そういうことあってから、羅生門さは鬼が出ねがったはぁ、て言うわけで、ほんじゃやっぱり渡辺の綱が退治したんだなぁていうことになったんだど。ドンピンカラリン、スッカラリン。
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