24 下男が聟

 むかしあったけど。
 ある旦那さま、何不自由なく、その、長者さまって言われるようなとこだども、たった娘一人ほかいながったど。ほして何ぼか、それも器量よしの利巧な娘で、あっちからもこっちからも聟心配されっども、どっから心配さっでも、いらねいらねって、決してもらわねずも。それからこんど、そこに段々身上もよくなる、財産もいっぱいにあって、稼ぎ人もいっぱい頼まんなねなだから、大勢若衆たのんで稼いでもらっていた中さ、たった一人、何ぼか不器用な汚ない人、
「おれば、釜たきでもええから、おれば使ってもらいたい」
 という人来たずもの。
「ええから、若衆仲間もいっぱいあっから、いてくろ」
 て頼んだど。そしてこんどいるうちに、娘、便所さ起きてみたらば、汚ない釜の火たき、おら家で頼んだ、どんなことしてるもんなんだか、部屋の中さ、ちょいと便所さ行くとき、覗(のぞ)ってみたば、きれいな湯上り出して着て、きれいな男いたずもの。なんだべまず、昼間いるも、傍さ寄るも嫌(や)んだような人が、あんなことになるなんて、狐の化物でもあんだか何だかと思って、そして朝げになれば真っ黒になって、いや働くわ働くわ、正直で一生懸命働いて、家の人はお気に入りだども、見かけは見らんね男だずも。そしてまた、夜も早くから様子見てくれんべと思って、娘覗(のぞ)って見たらば、湯から上って来て、一生懸命に白い鳥の羽根みたいな、顔撫でっだけど。そうしたば、またきれいな白い顔になって、ええ男になったじし、こんど、朝げに見て呉れんべと思って、朝げに覗ってみたらば、黒い鳥の羽根みたいなもの出して、こう顔さ黒いもの塗りだくってっこんだずもの。そうしてこんど、一生懸命で働いて、毎日のように、仲人は諸所方々から来るども決して、もらうて言わねし、その娘はそれば見込んでしまったずもの。そして、
「どんなな欲しいなだ、なんぼええどっからもらいに来て呉っども、もらわねし、困ったもんだな」
 と思っているうちに、風邪ひいたなて、寝て、こんどなんぼ薬飲めて言うても、ろくに飲まね。うまいもの拵えてくれても、食べなくてやせて行くていうずも。
「困ったもんだ。まず、医者に見てもらえば格別病気もないようだというども、食も進まねば、あんなことになって」
 と思って、そしてこんど、
「どこ悪(わ)れなだ」
 てよ。母親、まず、誰もいないとこで聞いたど。
「誰か別に欲しい人でも出たなだか」
「おら、釜の火焚きじさまば、よくよく聟に欲しくなった」
 て言うずも。
「あんなものもらって、格好も年寄りだし、まずあの顔もらったて、じきに明日で嫌(や)んだくなんねか」
 て言うたら、
「決して嫌んだくなんねから、もらって呉(く)ろ」
 て言うど。そしてこんど、
「どんなどこええ」
 て言うたら、みな母親に包みかくさずに、母親に話したど。そしてこんど、
「お前、まず、おらえさ聟になって呉(く)ろ」
 て言うた。
「おれような、こんなまず、体だて腰も曲った形の悪いもんだし、器量もこのように炭焼き権兵衛ていうよりまだわるい。ここの家の聟になんて、とてもなられる身でない」
 て言うども、娘は聞かねんだし、
「本当は、おらえの娘、こういうとこ見たなだというから、まず湯から上ってきれいにして、そしておれにも見せて呉(く)ろ」
 てな。そしてこんど毎日頼まれるもんだから、そのようにして、正物見せたらば、番頭仲間も魂消て、みんな大(おお)気に入りになって、こんどもらって、一生懸命働いて、身上はあがる、子どもも出るで、両親(おや)も喜んで、一生安楽に過したけど。むかしとーびん。
 
〈話者 高橋しのぶ〉
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