18　二人姉妹

　むかしあったけど。
　ある村に、夫婦で、そして女の子ばり二人もってあったけど。姉の方はなんぼかきれいで、ええ娘で、妹の方はあんまりきれいでなかったど。そしてこんど、
「こんなきれいな娘もって、こわい仕事だの汚ない仕事だので通したくないから、何か楽しく暮されるようなええどさやりたいもんだ」
　て、母親は願って、その姉ばばりきれいにしておいだじし、父親は、
「見かけ悪いとも、気立てやさしいから、姉は嫁にやっても、この妹は家で働かせて、妹に養ってもらう」
　て、そういう気ではぁ、妹ば一生懸命で父親はめんごがっているうちに、こんど殿さまの息子だという若殿さま、大勢の家来つれて、旅であったずもの。そして、そこ通りかかって、
「その、若殿さま、喉乾わかしたから、水呉(く)っでくろ」
　て、家来の人入って来たど。そんどき、みな働きに出はって、その姉妹一人んどきであったど。それからこんど、その人もそう言うんだし、
「おれだって水ぐらい呉(く)っじゃて差支えないべから」
　て、まず、家にある一番きれいなコップ出して水汲んでやったば、
「いま一杯、御馳走してもらいたい」
　て、また入って来て、二杯御馳走になって、そして行ったば、その殿さまも何ぼかきれいな殿さまであったども、その娘見つけたど。その殿さまも帰ってから、その娘ば忘れらんねことだど。それば欲しくなって、こんどあっちに手廻し、こっちに手廻し、もらいに来たど。んだから、母親はまず願ってもないこと、そんなきれいな立派な若殿さま、あらえの娘呉れられっこんだら、仕合せだと思って、そして母と娘は大喜び、まずそこさ嫁(むか)さって行ったごんだど。んだども、何年も経(もよ)っても、うんとめごがって呉(く)れっども、口聞かねごんだどな。言葉一つ掛けねど。
「異なごんなもんだ」
　と思っていたば、こんど、その母親に聞いてみたば、
「おらえの息子は、見かけは一人前に出たども、喋れなく生まれたなだ」
　そう言うずも。困ったどさ来たども仕方ない。来てしまったしと思っているうちに、自分もなんぼかきれいな男の子生んだど。それもまずまず、めんごくてめんごくて、仕様ない。笑うようにもなり、立つようにもなり、歩くようにもなりして、さっぱり口聞かねずもの。そしてこんど、そのこと親衆さ教えてよこしたば、
「見かけばりでないもんだ、ほに。おらえんな見かけええから、見かけええどさ呉っでなと思って呉っではぁ、間ちがいであった」
　て、母親は言う。父親は妹は気立てやさしいから、なるたけええ聟見つけたいと思っているうちに、うんと稼ぐええ聟見つけて…。
　こんど姉の方、くやんだで追っつかねども、妹の方は素直な聟の稼ぐなもらって、そして二人で一生懸命稼いで、親は養ってはぁ、親は一生安楽に通したけがらはぁ、見かけなど悪くとも、正直は一生の宝だと思ってはぁ、親衆も、妹ば一生懸命寵愛して、安楽にすごしたけど。むかしとーびん。
　
〈話者　高橋しのぶ〉
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