14 浦島太郎

 むかしあったど。
 ある日、太郎と名付いた人が、浜辺さ行ったど。そしたば子どもら集まって、亀おさえていじめっだど。結(ゆ)つけて引っ張ったりして。
「こらこら、にさだ、むごさいから、その亀いじめねで、おれに売んねが」
 て。むかしのごんだから、一銭か五銭に買ったわけだべもの。そしてこんど、放してやったど。なんぼか釣りの好きな人で、そしてまた釣りに行ったど。そしたら大きな亀現われて、
「あの、浦島さん、浦島さん、おれはいつか助けてもらった亀だから、その礼に竜宮さ御案内すっから、おれの背中さのって呉(く)ろ」
 て、そう言うずも。そして太郎は喜んで、そんなところさ連れでってもらわれるなんて、仕合せだと思ってのったど。そしたば波越え水の中くぐって、連れて行(い)がったど。そうして行ったところが美しい御門のとこさ着いたごっだずも。そしたらさまざまなお姫さまがお迎えに出て呉(く)っで、
「よく来ておくやった」
 てはぁ、喜んでその御殿さ上げてもらったど。そして、
「オトヒメサマという人さ会わせっから…」
 て、オトヒメサマという人の前さ連れて行がったことだど。そしたば、オトヒメサマも大変喜んで、そして、
「人間なんていう人に会われた」
 て、大変御馳走呉っではぁ、踊り踊らせたり、その侍女たちに。毎日の御馳走して呉れたごんだずも。あんまりそういうこと毎日してもらったば、退屈して飽きてしまったど。そして、
「オトヒメサマ、おれも大抵にして家さ帰りたいから、家さ帰して呉ろ」
 て願ったど。そしたら、
「何にもお土産呉れることは出来ねえから、この玉手箱呉っでやっから、これをよほどのことない限りは開けないように、このまま持ってろよ」
 て、そういうてもらって来たど。そしてまたその亀、迎えに来て呉っだもんだから、のせてもらって自分の家さ帰ったど。そして自分の家さ帰ったつもりだども、自分の家さがしても見当んねがったずもの。隣近所聞いてみんべと思うても、誰も、
「そんな浦島太郎なんて、この村にいでやったべか」
 て言うずなだも。
「何だべ、ここのようだが、おれの生れたどこは…」
 て思って探してみれば、山や川はそうなようだども、人はみな別なようだずも。そしてあんまりさびしいし、何入ったもんだかと思って、その蓋(ふた)とってみたど。そしたば煙ポーッと出てきてはぁ、自分の髪、白髪のおじいさんに、煙でなってしまって。そしてはぁ、ますます誰にも分んなくなってしまってあったけど。三年だと思って暮しったども、三百年にもなっていたんだけど。むかしとーびん。
 
〈話者 川崎みさを〉
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