10 法印と狐-おさん狐-むかしあったけど。塞の神にはぁ、なかなか利巧な狐いでやったずもの。こんど、むかしは法印さまって、下叶水の、島貫という家ある。そこのじさま、上叶水の家まで毎年二月になっど拝みに来たもんだ。お日待ちに。 「それ、今日はええ空だし、まず二渡戸まで拝みに行って来っかな、お日待ちに行って来っかな」 て来たずもの。暖ったかい空なんだから、塞の神の橋さ来たば、狐、あんばいよく出はって昼眠しったずも。 「そしてはぁ、あんまりよく眠ってた、これ、魂消らがして見っかなぁ」 と思って、法印さま、ホラの貝持ってくるもんだからな。狐の耳さ当てて、フゥーて吹いたとこだど。そうすっどはぁ、狐は魂消てはぁ、飛び上がって、木立さ入って行ったっけど。そうすっど、 「法印のおれに、あがえに気持ちよく眠でたとこ、あがえに魂消らかしたから、帰りに仇とって来んなねと思ってはぁ、そしてこんど、二渡戸を、お日待終して戻って行ったど。まだ二時頃であったべ、お昼終して戻って行ったずも。そして行ったばはぁ、塞の神さ、いまちいとていうたば、暗くなったずも。 「何だかなぁ、道もそがえに悪くないけぁ、こがえに早く暗くなって、まず、なしておれ、こがえに手間どってもんなんだか」 と思って、 「暗くなったし、どこかまず、誰か提灯でも点けて来ねかと思って見たば、向うに火のあかり見えっしな、義雄おどっつぁ灯りだべから、まず提灯でも借りっか」 て寄ったずもの。 「こんばんわ」 て言うたば、「はい」なて、義雄おどっつぁ、 「いまごろ行かねで、おら家さ泊って行け」 なて、言うずもの。 「ほんだらは泊めてもらって行くか、おらえの人、そがえに案じてもえんめえから、二渡戸とここの間だから、ほだら泊めてもらう」 て入ったずも。そしたばこんど、夕飯は御馳走になったし、こんど「湯さ入れ」て言わっで、こんど湯もらって、そしてええ心持ちで入っていたど。そうしてこんど入っていたば、自分の家族の島貫の家では、 「おらえのじんつぁ、泊ったことなんて、めったにない、どうでも帰る」 て来たなに、来ないな何だごんだと思って心配して探ねに来たずも。そしてこんど義雄おどっつぁ、家ではええあんばいに湯さ入って来た気で、法印さまはいたずし、そうしたば、こんど、 「じんつぁ、こんなとこにいて、ほら、いまちいとで死ぬとこであった、川の中にいたでぇ」 なて、呼ばらっだずもの。ほうしたば、塞の神の橋の下さ、狐に仇とらっで川端さゆらっでだんであったけど。それからはこんな賢い狐さは決していたずらさんねと思ってはぁ、まず家さ行って、そんな話してはぁ、そしてまず風邪も引かねように、家の人に温めらっで過したけど。むかしとーびん。 |
〈話者 高橋しのぶ〉 |
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