5 蟹むかし

 むかしあったけど。
 じさとばさが二人暮しあったけど。こげな暖かい日であったべぁ、じさは山さ柴背負いに行って、あまり暑いから、沢さ水飲みに降りだずも。したば、水飲んで休んでいたうちに、蟹出はって来たから、大きな蟹だから、これ取ってって、婆さんに喜ばせべえと思って取ってきて、そして木おろして、
「ばさ、ばさ、蟹とってきたから、大事に飼っておけよ」
 て、そう言うてまた行ったど。そうしたはぁ、ばさ、
「何だか蟹はなんぼかうまいもんだということ聞いっだども、一ぺんも食べたことないから、じんつぁいないうちに食べても悪いども、まずまた取って来(く)んべから、おれ食べっかなぁ」
 て思ってはぁ、焼いて食べてしまったずも。そうしてこんど、叱られっど悪いから、まず茶畑さでも、家の前にお茶畑あるも、そこさでも甲羅どこ食って、甲羅は、これ食(か)れねと聞いっだから、お茶畑の肥料(こい)にすんべと思ってはぁ、埋(うず)めてしまったど。そうしてこんど、じさ帰ってきて、
「ばさ、ばさ、今来た、蟹逃がさねようにしったか」
 て、そう言うたば、
「大事に飼ってだ」
 て言うども、なんぼ見てもいないずもな、水屋舟さ。おらえの流しさ飼ってたな、なんぼ見てもいないし、困った、こんでは、
「じんつぁ、逃げたようだな、ここさ入っでおいたのいないもの」
 て。また何だか、美しい鳥、家の前さ飛んできて、
〝甲羅は茶畑、身はばば食うた食うた〟
 て、さえずっこんだど。なんと妙な声立てて、さえずる鳥だと思って、よっく聞いだれば、
   甲羅は茶畑
   身はばば食うた 食うた
 てさえずったど。
「はぁ、んでは、何だまず食ったは食ったて正直に言いさえすれば、そがえにおどさねに、なして正直にしない」
 て、あんまり、こんど叱らっだもんだから、こんどは、
「ほんだら、おれ行って取ってきて、じさ、済(な)すから休んでで、おれ取りに行(い)んから…」
 て、ばさ、ハケゴ下げて行ったずもの、じさまに聞いた沢さ。そして、
   蟹コ沢の蟹コやーい
   チョッコマッコと ホーデコイ
 て、石はがしはがし探して行ったば、いっぱい出はってきて、運よく、そしていっぱいとって来てはぁ、いっぱいとって来て、そうして、じさと二人で食べらせたけど。そしてまた仲直りして、一生むつまじく暮したけど。むかしとーびん。
 
〈話者 高橋しのぶ〉
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