9 魚女房 

 むかしあったけど。
 どこさ行ったどきだが、子どもら、魚、何魚だか捕めていたどこ、助けて、そして家さ帰っていたら、よっぽど経(た)ってから、きれいな女、
「泊めてください」
 てきたど。いろいろ聞くど、
「いそぐ旅でないから」
 て、長く助(す)けてけっでいたど。留守番などしてもらったもんだから、親父喜んでいると、毎晩、ハラコ汁のお汁から何からこさって(作って)御馳走するもんだから、大変に、
「不思議だな、こがえなハラコなど買ってきて、おれに御馳走するもんだ」

 て思って見ていたど。そしてある時、
「ちょっと魚でも買ってきたいから」
 て、出かけて行った。
「今日など帰ってくっか、帰ってこねが分んね」
 て思って来てみると、とっくに帰って来ていたもんだから、
「魚買ってきたか」
 て聞いたれば、
「行ってみたげんどなかったもんだから、買って来(こ)ねがったげんど、残りあんなだから、御馳走すっから」
 ていうから、見る気もなくて料理場のぞって見たらば、鮭(さけ)のよに化けた体を現して、一生懸命卵産(な)していたど。
「ははぁ、こりゃ、前に助けた魚、恩返すためにこういう風にして、ハラコ御馳走した」
 と思っていたど。次の日になってから、
「長々御厄介になりましたから…」
 ていう。
「そがえに帰って行かねで、いまちいと家にいてもらいたい」
 て言うたば、
「おとうさんが、昨晩、おらの卵産すどこ見てあったべ」
 ていわっで、そしてこんどぁ、その魚、前の池さドボンと落ちて、魚になって海さ帰って行くどこだったど。
(関場)
>>さるむこ 目次へ