7 猿     聟

 むかしあったけど。
 干魃で後千刈、前千刈もってだ家だったど。水掛けらんねで、
「困った、困った」
 ていうたれば、猿ぁどっからか、てんてん、てんてんと来て、そして、
「娘三人いだな、一人呉ろ」
 ていうて、
「そうすっど、おれ水掛けで呉(け)っから」
 て、そして掛けて呉っじゃど。そして家さ来ていうたれば、一番娘は、
「はつけな猿のおかたに行かれんめぇちゃえ」
 ていうた。ほうすっどはぁ困ったじだ。親(おや)んつぁま、病気の真似して飯(まま)も食ねで寝っだ。そしたれば二番目の娘がきた。
「飯食え、飯食え」
「食(か)ね、食ね、おれのこと聞いで呉れっど食うげんど」
 ていうたら、
「猿のおかた? はつげな、やかましい」
 なて、逃げて行ったど。それから一番小(ち)っちゃな娘がきたとき、
「おれが、ほんじゃらば、猿のどこさ行んから起きて飯食え」
 て、嫁さ行ったど。ほして山の中さ連(せ)て行がっで、それから三月節句だから、家さ帰っだいて娘がいうた。ほうすっど、猿も猿で、
「何、お土産にもって行ぐ」
 ていうど、
「んだな、おら家のおっつぁま、一番好きななが、餅だから餅搗いで呉ろ」
 ていうたら、猿は本気になって餅搗いたど。と、その餅、
「何さ持って行ぐどええ、それは重箱さええか」
 ていうたら、
「重箱さ入っで行ぐど、重箱くさいていうし、鍋さ入っで行くど鍋くさいていうし」
「ほんじゃ、何すっこんだ」
「いや、ほいつはやっぱり餅だから、臼がらみ背負ってけろ」
 ていわっじゃど。ほんで猿は臼がらみ背負って山を降りはじめだ。そして途中まで行ったらば、桜の花、沢さ咲いっだ。
「あそこにええ桜ある、きれいだな」
 て、娘も動ねで見っだ。そうすっど猿は本気して、
「ほんじゃ折(お)しょってやる」
 ていうげんども、荷物おろすべと思ったら、
「土くさいぐなっから、背負って登ってくろ」
 ていわっで、猿は臼背負って登った。ほうしたところぁ、
「この枝か、この枝ええか」
 ていうど、
「いや、もっと高い木の枝だ」「こいつか」ていうど、「もっと高い枝だ」て、とうとうその木が折れるまで登ったから、臼と一緒にひっくらかえって落っでった。そして川さ溺っで流っだど。そんで笑ったら猿は、「おれ死んだたて、泣くなよ」ていうたど。
 それから娘はてんてんと帰って家さ行ったど。どうびんさんすけ、さんすけ眼(まなぐ)さ火ぁ入って、ごんすけ眼で吹っ消した。
(袖山)
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