6 猿 聟あるところに、三人の娘さん住んでいだんだけど。そして田んぼ作っていたわけよな。そしたところぁ、今年みたいに干魃で、その田んぼ、でんでんと割れっどこよな。そしたら、おどっつぁ心配して、 「このような、ほに、干魃続いて困ったな。誰か水上げて呉(け)た人いだったらば、ええがんべな」 て、夕方、田んぼさ行って一人ごと語ったわけよな。そしてふっと後(うしろ)見たらば、猿が後にいだったわけよな。したらその猿、 「何語った、親父」 あっと思って、そのおどっつぁが、 「このように干魃続いて、誰かに水上げてもらったら、なんぼ助かっかなぁと思って、おれぁ言うたどこだ」 ていうたど。そしたところが、ほの猿、 「はぁ、そがえなごんだら、おれ、水上げて呉れっから…」 ていうたどこなぁ。 「ほんじゃ、そのお礼に何か呉(く)れっか」 ていうたどころが、猿ぁ、そしたら、 「娘三人、おれぁ持ってだげんどもなぁ、どの娘、おれのいうこと聞いでけっかなぁ」 て、その猿にいうてしまったど。そしておどっつぁ、しおしおとして、夜飯も食ねで眠てしまったど。ほうしたところが、ほの三人娘がうんと心配したわけよ。 夜飯も食ねで眠てしまったから、気持も悪(わ)れか何だかと思って、その次の朝、その前さ行って、一番大きな娘さんが、 「御飯出たから、とうちゃん、あがやぇ」 て、起こしに行ったど。 「食(く)だくない」 「なして食いだくないなや」 ていうたどころが、 「じじよ、きのうの夕方、田んぼさ行ったところが、みな乾いてしまって、あんなごんだれば、米も穫れねし、何とかこの田んぼさ水掛けたら、この田んぼは助かんで、米穫れるから、誰か水かけてくれる人いねがて、一人口たった。そうしたところが、その後さ猿がいて、〈それでは、おれ水かけっから、娘一人、嫁に呉ろ〉ていわっだ」 そういうたど。ほしたら、 「とうちゃん、何語る、おれ、そがえな猿のおかた(妻)に、嫁に行がね、おれ」 ていうて、その一番大きい娘は、とおちゃんの部屋から出てきたもんだ。ほうすっど二番娘、こんど行ったわけだ。そして二番娘もとうちゃんにそういう風にいわっじゃもんだから、また、 「猿の嫁など行かね」 て、戻ってきたが、その次の三番目が行った。 「とうちゃん、なして御飯食(た)べねなや」 ていうたどころが、やっぱりとうちゃんもさっき言うた通りの話語ったど。 「それほど、とうちゃん心配すっことない。ほんじゃ、おれ、猿さんの嫁になっから、ほんじゃ起きて御飯あがっておくやい」 ていうたどなぁ。そうしたところが、とうちゃん大変喜んで、そして朝御飯たべて、こんど仕度して、その三番娘を猿住んでた山さ送って行くどこだ。 そして、猿の家まで行ったげんどな、そしたら猿が約束通りに行ったもんだから、大変喜んで水掛けて呉(く)っじゃどな、田んぼさ。 そしてその田んぼは助かるし、猿はええ嫁もらったと喜んで…。そして楽しく暮しったどこだどな。ほして雪もだんだん降って、次の年の三月になって、三月の節句は女の節句で餅ついて実家に行ぐ節だ。それ、嫁さんがいうたどこだどな。 「そしたら、餅搗いて、お前と一緒に実家に送るから」 て、餅搗いて、そして重箱さ入っで持って行くべとしたところが、その娘が、 「猿さん、猿さん、家のおとうちゃんがよ、重箱さ入れっと重箱くさい匂いするって、その餅好きでないなよ」 て、そういうたど。こんど、 「そうしたら、なじょしたらええかな」 て、猿がいうたら、 「その臼の中のその餅が大好きだ。それがらみ背負って…」 て、そういうたどこだ。ほしたらその猿も臼がらみ背負って出かけたどな。ほして山、だんだん、だんだん行く途中に、川あって、そのほとりに桜の木あった。その桜が満開に咲いて、とってもきれいな桜だった。したらその嫁さんがその桜に見とれて、 「猿さん、家のとうちゃん、桜とってもきれいな好きで、一枝でも折って帰りたい」 ていうたどこだ。猿さんは、 「んじゃ、あの枝一枝取ってくっから」 て、その背負ってだ臼を土間に置く気したところが、 「土くさい匂いすっから、その餅嫌いだ」 というたところが、そして猿さんも、 「背負ったまんま、木さ登って行んから、どの枝ええか、お前、下に居でで、どれがええて言(ゆ)え」 ていって、登ったところが、臼背負ったまんまなぁ。そして、 「ここら、ええか」ていうたら、「いま少し上」 「ここら、ええか」ていうど、「いま少し上」て、だんだんと上さ登らせて、とたんに臼の重みで枝が折れて、川さドブンと落ちてしまったど。そして流されながら、猿は、 さる川に流るる命おしまねど 妻のなげきは おしまるるかな て、猿が詠んで川に流れて、どんどん、どんどんと行ぐどこよなぁ。そうすっど嫁さんは何とも助けようなくて、流れる様子を見ながら、あきらめて実家に帰ったど。どーびんと。 |
(藁科) |
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