15 自分の荼毘(だみ)買い

 五郎右ヱ門というところの家の、二代ほど前の人が、町から暗くなってから、大明神坂というところだげんど、上がってきたら、向うからこっちの方は明神原というところよ、そっから人がぞろぞろて、六、七人、人声がして、提灯つけて降(くだ)ってくるていうわけよ。ほうすっど、
「はてな、何だべな、人、降(さが)ってくる」
 て見たら、塩地平の自分の組合の人だってよ。ほして、行き会って、まず、
「なんだ、まず、何始(はじ)まった」
 なて。
「いやいや、五郎右ヱ門のばばが死んだから、いま荼毘買いに行くもんだから」
 て、そのばばが先頭に立っていうのだど。
「なえだ、お前、生ぎっだどら」
 ていうど、
「生ぎっだざぁ、あんまい。おれ死んだんだ」
 て言わっだていうわけよ。そうすっど、
「もともと、大明神ざぁ、狐いて化かにすっどこだから、化かさっだに違いない」
 て、がらがら走って、重左ヱ門さ来て、
「まず、今夜泊めて呉(く)ろ」
 て、重左ヱ門さ泊ってきたことあったて聞いたな。
(藁科)
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