11 砂糖一樽みな食う佐兵次、米沢の城下に行った時の事であった。ちょうど菓子屋の主人、今頻り に砂糖をこわしておった。何と思ったか、佐兵次、一心になってそのこわす様子 を見詰めておった。店の主人、店前の人はと見れば、風彩のあがらない佐兵次、「佐兵や、何か買物の品でもあるのか」 「何、旦那、別に買物とてもないが、佐兵次は砂糖は大好きで、人の驚くほど食 うことができるよ」 「そうか、下戸は砂糖は好きだからなぁ、佐兵、二百匁も食われるか」 「何、旦那様、佐兵は二百匁や三百匁などは歯の間に入って了う。気になって食っ たら一樽位は食われるよ」 「何、一樽。馬鹿な、本当に食われるか」 「本当だよ」 店の主人も物好きだ。 「よし、佐兵砂糖一樽食れるというなら、おれは食わせてやるが、もし食れなかっ たらどうするぞ」 「旦那、もし佐兵が食れなかったら、此の首をやるぞ」 その言い草は面白い、こうして店の主人と賭けが始まったのであった。店の前 は沢山の見物だ。やがて樽の前に行った佐兵次、樽の中から取っては食い、さも うまそうに詰込む。 「旦那、こんな馳走は近頃にない事だよ」 と、取っては食い、ややしばし、もう是以上は食われなくなると、 「旦那、非常にうまかった。又明日も来て、馳走になるぞ」 「なに、佐兵次、一樽の砂糖はとても食われまい、約束だから首を置いて行け」 「これはしたり、旦那、佐兵次は一樽の砂糖は食われるが、今食うとは言わぬ筈。 又明日も明後日も来て食うが」 なる程そう言われて見れば、理屈のあること、店の主人も佐兵次に一杯見事に くわされ、二の句はつげなかったという。 |
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