3 六尺の桶むかし、上郷の長手に伊佐という大泥棒がおりました。石川五右ヱ門と肩を並 べるほどの泥棒であったといっても、決していい過ぎではありません。そんな伊 佐ですから、子どもの頃から、その腕白ぶりもかなりであったに違いありません。 堪りかねた父がこらしめてやろうとして、伊佐が悪さをしたのを見て、六尺の桶 に閉じ込めてしまったのです。六尺の桶といえば、そうです。あの酒屋で酒を造 るときに使う大きな桶です。父は怒って、伊佐に怒鳴るのです。 「ここさ入って、よく考えてみろ」びしんと大きな音を立てて、蔵の錠前が下ろされてしまったのです。きっと腕 白の伊佐の奴も、真暗い桶の中じゃ、そのうちに弱音をはいて泣き出すだろう、 そうしたら悪さもしなくなるだろうと考えてのことでした。 一日経ちました。蔵の中は静かです。二日経ちました。蔵の中は物音一つしな いのです。 三日目、父は少し心配になりました。一体どうしているんだろうと、こっそり 蔵の中をのぞきに行ったのでした。するとどうです。伊佐は自分の帯をといて、 結び目を作ってそれをひょいと桶のうちに引っかけて、するすると桶の上まで 登ってくるのです。 「あっ、いけない、お母さんだと思ったら、お父さんだ」 と、伊佐は頭をかきながら、 「お父さん、ごめんなさい」 と言うのでした。全くすばしこい奴だと、父はにがわらいをしながら許してやっ たということです。 |
(船山健重) |
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