26 屋根葺と知恵くらべ

 米沢から最上に通うに、赤湯から鳥上坂を越えて、中山から上山さ出る途中に 川樋というどこある。川樋にも佐兵の知り合い居て、そこさ行ったときのことだ ど。ちょうどその家で四人の屋根葺がいて、一人が風采あがらね佐兵を見て、一 つからかってやんべど思って、
「やぁ、佐兵、お前はみなから、名人、上手だと言わっでいるげんども、どうだ おらだの真似できっかい」
 て言うたど。そうすっど佐兵は笑って、
「お前方も人なら、佐兵もんだ。お前方のすることなら、なんでも出来んべ」
「こいつぁ面白い、んだげんども、出来ねがったらどうする」
「そいつぁ、先手打ちだっだな。そんではもしおれが勝ったらどうする」
「よし、おれたちの一日の日当、みな呉れる」
「そうか、よし」
「だげんど、お前が出来ないときは…」
「お前たちの言う通りにするべ」
「待てよ、佐兵は無一文だから、毎日屋根葺手伝いしてもらうべ」
「ああ、ええがんべ」
 て言うことになって、屋根葺の一人ぁ米俵ば横に背負って立ったど。すっど佐 兵も二俵背負ってみせたど。そいつ見てた他の屋根葺は、
「そんじゃ、屋根葺で来い」
 て言うもんで、するする屋根さ上って行ったど。そうすっど佐兵も後から登っ て、鋏をチョキチョキ使い、ヘラを使って屋根を葺いたど。そいつを見てて、舌 巻いて、こんど、
「置賜の破風は台所の上さあったけがな」
 て言うど、佐兵は、
「いや、台所と座敷の境さある」
 て言うたど。そうすっどこんど、
「佐兵、屋根葺はいつでも高いとこで仕事するんだから、職人では屋根葺が一番 だ」
 て言うたど。そうすっど佐兵は、
「いやいや、随分自慢すっけんど、高い屋根におれば落ちる心配あるし、落ちた ら死んでしまうべ」
 て言うたど。そんで屋根葺は、 「佐兵、木を二つ合せれば、何だ」
 て言うど、
「なんだ、そんなの何のことはない。林だべ」
「んじゃ、桜という字は何と読む」
 佐兵はにやりと笑って、
「十八の女が二階の下にいる、だべ」
 何尋ねてもすぐ答えるんで、屋根葺ぁとうとうカブト脱いだ。そして四人分の 日当、二人分にまけてもらって、佐兵にあやまったど。
〈話者 近きよ〉
>>佐兵ばなし 目次へ