21 役人の頭を打つ

佐兵次さんは機織りを教えたということは有名な話。
当時の露藤の女子衆は佐兵次さんに教えられたといわれる。また泉岡村の七郎 右ヱ門さんの内儀さんも佐兵次さんに機織りを教えられたという。当時尾長島で 阿妙陀寺の尼さんが殺された。朝になってこれを見つけ大騒ぎとなった。役人出 張して調べたところ、現場に天保銭六七枚散らばっていた。また寺の前の小川に 火箱が入っておった。それへ露藤村佐兵と記してあった。嫌疑がすぐ佐兵にかかっ てすぐ捕った。しかし佐兵次は連日日記をつけておいた。その日記によると、そ の晩は寺へ泊らなかった。名主の名左ヱ門さんが奉行所に出頭して、佐兵次は人 を殺すような者でないと証明したので、許されて帰った。
佐兵次は露藤の某と賭をした。白昼米沢の藩の役人の頭を打たれるかと。佐兵 次は笑いながら、己なら何の造作もないと相手の某も驚いた。その結果佐兵次は 役人の頭を打つこと、もし打ったら金百疋と酒十杯買うこと、もし負けたら某の 言うことは何でも聞くことという約束であった。そして今日、二人同道して佐兵 次さんは打つ、某人は見届け役であった。某もまさか役人の頭は打たれまい、今 日こそ佐兵次の高慢の鼻をへし折ってやろうと、米沢の城下にやって来た。折か ら通りかかった役人二人、店へ買物に入った。そこへづかづかやって来た佐兵次 さん、一人の役人の頭をいきなり拳で一つ、相手の男はおどろいて、どうなるこ とやら、息をのんでみておった。すると佐兵次、道へやってきて馬糞をつかんで 食おうとしたところ、最前の武士は何者かと怒鳴ったが、見れば一人の男、今馬 糞を食っている。てっきり狂人と思ったのであった。馬鹿かと笑いながら去った。 某も今更ながらおどろいたのであった。こんな頓智をして、相手をおどろかした のであった。
(「つゆふじの伝説」)
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