17 えじこ作り

       (1)
えじこというものは、赤ん坊出っじど、えじこざぁ、むかし作ったもんだべ。 そのえじこざぁ、一日に拵え上げなねのだど。ほだから、普通の人ぁ、朝暗いう ちから藁打って、そうして夜遅くまでで作らんなねがった。
最初頼んだところぁ、午になっても遊んでいらっで、困ったど。
「佐兵、まずなじょなもんだず。えじこ拵って呉るというけぁ、拵って呉んなか」
「拵う」
「今ごろから、拵われんなか」
「拵えしたらええがんべ」
「んだ、拵えさえしたらええんだ」
「んじゃ、拵えてやっから…」
「ほんとだべなぁ、人馬鹿にしたこと、しんまいなぁ、佐兵」
「心配すんな、まず」
 そして作ったど。ちゃんと夕飯食れる前に、終ったど。
 それなど、何きれいだったか…。
(近きよ)
       (2)
 小佐家の安部今吉さんは八十九才でなくなった珍らしく長命な人だった。露藤 の名物男佐兵次を知っていろいろな話をした。
 同老、小野川の扇屋旅館に泊ったとき、露藤の佐兵次のことを聞いた。同人は 「いぢこ」作りの名人で、よく頼まれると、喜んで飯も食わず作った。一日に二 個を作ることも珍らしくなかったといわれる。機織りも上手で、機道具は自らこ しらえたという。
(「つゆふじの伝説」)
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