16 桑こき

 佐兵来たど。
「旦那、桑持 (も) した。買っておくやい」
「なんぼだ、桑」
「なんぼでもええごで、なぁに、ええようにええごで。おれぁ桑こき賃さえもら うとええなだ」
 て、旦那に佐兵が言うたど。桑こき賃なんて、そんがえ安くさんねし、当り前 に買ってやったど。そしたれば、次の日見たれば、自分 (われ) の家の畠の桑こいていだっ たど。
「なえだ。おれの家の桑こいて持って来たのんねが」
「んだから、桑こき賃さえもらえばええと言うたどれ」
 て言い逃れたんだど。
〈話者 高橋照太郎〉
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