13 しらみ五升質入れ

 佐兵じゃ、うんとシラミたかりだったど。そしてまず、みんなだ冬になっても 寒い姿してるもんだから、むごさいと思って、胴服呉っじゃりすんのだど。そが えしてもらった時には、着っけんども行き会った人が自分より寒そうな格好して いっど、片端から脱いで着せんのだど。ほだからいつでも体さ喰付いていないど。 衣裳な。自分も喜び、他人も喜びさせて、自分も寒がっていっけんども、そうい う人であったんだど。
 あるとき、入生田の金持の家から新しい綿入れもらったもんだから、酒大好き なもんだから、質屋さもって行って、酒代拵えに行ったんだど。そうすっど、シ ラミたかり知ってるもんだから、番頭、
「佐兵の綿入れでは、シラミもいたべなぁ」
「いた、シラミ…」
「んじゃ、シラミがらみ置くのがはぁ」
「んだ、シラミがらみ置いで呉ろはぁ」
「ほんじゃ、なんぼと書いたらええがんべ」
「シラミ、五升とでも書いて呉ろはぁ」
 質札さ、綿入れ一つとシラミ五升と書いだんだど。そして行って、佐兵、何考 えて行ったかも知らねで、笑っていたど。そしたば間もなく、佐兵が来て番頭さ んさ、
「質受けて行くべはぁ」
「早いなぁ、佐兵」
「んだ、寒いから」
 なて、ほしてこんど持って来て、質札と交換すっどき、佐兵は、
「なんだまず、おれぁ質に置いたの足んね」
「何足んね、まず」
「ほう、ここさ書かっていたべ。シラミ五升と、そいつもらって行かんなね」
「なんだ佐兵。シラミ五升なんて、そいつぁおどけだったどら」
「おどけであんまい、ここさ書かってだもの、もらって行かんなね」
 やんやん、やんやんて、店先で言うもんだから、旦那、またこりゃ佐兵にやらっ じゃんだと思ってはぁ、出てきて、番頭と二人喧嘩などしているもんだからなぁ、
「佐兵にはまいったんだ。まいった。まいった。佐兵にやらっじゃんだ。まず仕 方ない。んじゃ、酒代であやまって、シラミいなくなったんだから、こっちから シラミ買うがらはぁ、売って呉ろはぁ」
 て、シラミ代払ったんだって…。
〈話者 近きよ〉
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