12 鳩蔵さんと謎問答

 むかし、佐兵という、おどけたことばっかり評釈きりで、他人 (ひと) 魂消らがしてば り話語る人だったど。そしてこの片目の嶋蔵さんという人は、これは学者だった ど。そしてここさ、とうし佐兵があっちゃ廻り、こっちゃ廻りして歩いたもんだ からな、どこで飯食って歩くなんてないもんだから、そこさ泊ったど。
「ほんじゃ、今夜、佐兵まず謎ときすんべ」
 て言うたら、
「ほんじゃら、おれから謎とっか」
「ええから、ほんじゃらば、佐兵とかけて何と解く」
 て言うた。佐兵もなんぼ考えても考えらんねがったど。そうすっど嶋蔵という 人が、
「おれ解いてやる。佐兵とかけて、タムシと解く、そのこころは『ぐりぐり廻っ てくる』」
 そうすっど、家内中が大笑いしたんだど。
「親方、ほんじゃ、こんどおれが謎かけんべ。嶋蔵親方とかけて何と解く」
 その学者の親方もちょっと分んねがったど。
「御祝儀の盃と解く」
 みんなだ、ちょっと分んねがった。御祝儀の盃なんて言わっでな。佐兵はまず 返報がえしすんなだから、何て言うんだか、と親方も待っていたど。
「そのこころは…」て聞いた。「そのこころは『一生のかため』」
 んだげんども、苦虫つぶしたような顔面したげんども、何とも仕方なくて、
「今夜ばりはぁ、貴様に負けた」
 て、カブト脱いだど。
〈話者 近きよ〉
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