5　田植の名人

　　　　　　　　　（１）
　四角い田さ、真ん中に、ちょぽっと入ってぐるぐると丸く植えたど。そして植 上げたどこ見ると、横縦十文字、全部整うがったど。
「ずいぶん、佐兵さんが植えた田は、曲んねもんだな」
「んだからよ、おれ泣いっだなよ」
　て、佐兵が言うたど。
「秋さなって、曲んね（穂が）と思ってよ」
（佐藤宇之助）
　　　　　　　　　（２）
　あるとき、遊んでばり歩くじだごでなぁ、気ぃ向き次第。田植しったとき、み んな田植しったの見て、田の畔さ腰掛けでで、涙こぼしったて。
「なえだ、佐兵、泣いっだりして…」
「おれ、みんなの真似さんねもの」
「何の真似さんねごんだ」
「みんな、あがえ上手に曲げて、縄張っても曲げて田植えっどら。おれぁ縄張ん ねったって曲がんねも」
「なんだ、この野郎、人馬鹿にしたことばり語って、そがえ上手に植えられっこ んだら、植えてみろ」
「ほんじゃ、おれ、植えてみっか」
「植えてみろ、まず」
みんなは縄張って、うしろさ下がって行くげんども、佐兵は縄も張んねで、真 直に、チョポチョポチョポと植えて行く。そして早いし、一つも曲んねがったど。
田植えだらば、そがえ上手ななかったど。
一日手伝って、お振舞いにあずかって、そういう風な田植の名人だったって。
何仕事でも名人だったど。
（近きよ）
　　　　　　　　　（３）
　田植になど行くどよ、さっさっさっと、こう田植えんのだど。佐兵ざぁ、何で も仕事の上手な人で…。
そして向うの畔さ行って、アンアン、アンアンと泣いでいんのだど。
「佐兵、なんで泣いっだ」
　て言うずど。
「みんなみたいに曲げて植えらんねもの」
　て泣く人だったけど。
（清野キヨ）
　　　　　　　　　（４）
　田植しったど。そしたらば、
「そんなめんどうくさいこと、してっことぁない」
　て、そして雨降りに、自分が苗取りして、雨ざぁざぁ降って休みで、着るもの もその当時何もなかったから…。そうすっど藁を編んで束にして、
「何しんべ、あんな大きい藁背負ってって、田畔さ持って行って…」
そしたどころぁ、ミノの代りに着て、稼いでいっかったど。五反も植えっかっ たど。ミノ着ったまんま苗取りして、蓑の藁を一本一本抜いて束にして、たばね たど。
（吉田広）
　　　　　　　　　（５）
　ある部落さ、仕事ぁうんと上手だったもんだから、「佐兵、おれさ田植助 （す） けねか」
　て。
「駄目だ、おれ、一人前はさんねげんども、人並ぁいられんねべし、お宅さだら 行ってみんべ」
　て、こう言うて、ボロ着物きて行ったらしいんだな。そうすっど、二 （ふた） はかばか り植えたそうだ。小さい田んぼ、そうすっど頓智なもんだから、手ぁ悪 （わ） れの、足ぁ 悪れのて、一はかばり、人並みに植えないでしまったんだな。そうすっど頓智な もんだから、
「いや、おれぁ田植下手でわかんない、やめて行くべはぁ」
「田植では、お宅さ来ても、手間ももらわんねし…」
「いやいや、そうやねで来て、ついでに植えてけろ」
「そんじゃらば、植えて見っか」
　て、三はか目に、こんどは鉢巻きして植えたど。そうしたところぁ、約十五メー トルも植えたど。そうしたところぁ、いや、すばらしい田植は上手だったど。そ うすっど一人十メートルばり早く上がって、自分が田植したとこ見っだけぁ、
「へぇ、おれは、なして田植下手なもんだべな、下手だげんど、さっとしてこう したもんだ」
そしたら、五六人は魂消たど。上手でよ。
「佐兵、こつなしで下手だなて言うげんども、大変上手なもんだな」
「おらだ、さっとしてこういうもんだ」
なんて、そういうもんだど。
（渡辺金五郎）
　　　　　　　　　（６）
　佐兵が、他人の田植だったどこさ来てよ。そうしてワァンワァンて泣いでると いうもんだど。そうしっど、田植しった人、
「なんだ、この野郎、他人の田植さ来て、泣いだりして…」
　て言うたど。
「いや、みんな、曲げて植えっけんども、おれ植えで、曲げらんね」
て、そのくらい腕ええくらいだったど。
（安部茂次）
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