6 嘘語ろう

 ()(かば)(宮城県白石街道にある)は、ここより山沢なもんだから、こっちより田植えが遅いんで、こっちから田植に行ったど。ところが干蒲あたりさも、楢下の、「語ろう」の名前聞えでで、
「楢下にざぁ、嘘語るていうないだった、んねがぇ」
「いだ」
「どこらの家だ」
「いや、おらえの家だ」
「いやいや、いや。ほいつぁ君、われごど言うたねぇ」
「いや、悪れぐない、ほれは、嘘語ろうていうのは大したもんだ。誰でも『嘘語ろう』なて名のられるもんでない。殿さまからもらった名前だから、ねっくらくなね(一切かまわぬ)」
「嘘ざぁ、なぜして語るもんだ」
「いやいや、嘘だって、ええっくらい語られるもんでない、嘘一巻から嘘十巻まで、巻物あって、その巻物通り喋らねど、嘘ざぁ、通り悪くてわかんねもんだ」
「はいつ、何とか、楢下さん、見せてもらわんねべか」
「いやいや、袖すり合うも他生の縁ていうこと言うたもんだ。君ださだら見せてもええがんべ」
「ほんでは、借り行ってええがんべが」
「ええ、家に親父いたから」
「ああ、ほうがっす、んでは」
 ていうわけで、田植もそこそこして干蒲から二、三人、楢下さ走ってきた。まず一里の道走ってきて、ほして、
「嘘語ろうの家はどこだい」
 て聞いだって。ほうしたれば、じさまに、
「何、この野郎べら、とんでもないことぬかす」
 て、さんざん怒らっで、ほして、
「ほだな本なの、あるもんでない、誰言うてよこした」
 て、ほうほうの体で逃げて返って行った。
「いやいや、ひどい目に会って来たい、君、嘘の本なの無いて、親父にかんかんごしゃがっできた」
「いやいや、はいつぁ、嘘の第一巻だ」
 て言うたけ。どんぴんからりん、すっからりん。
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