2 赤い兎

 むがしむがし、兎と熊といで、兎が熊に()わっだ。ほしてどういうわけだが、めったぇ兎など追ったことのない熊なんだげんども、腹でも()いたがして、兎を追った。兎は、ほれ、追いつかれっど食れっどなんねどて逃げたげんども、熊の足が速くてとてもとても逃げられそうにないんで、道の脇の草むらさ入ってしまった。
 ところが、先が行きどまりで、ないったて分かんねがら、そこから急にもどってみたら、熊ぶっ魂消て逃げて行った。
「へぇ、不思議なこともあるもんだ」
 と思って、来たらこんど、狼は逃げる、猿は逃げる、皆逃げる。逃げるばりでなく平身低頭して頭さげでる。
「不思議なこともあるもんだ」
 ど思ったら、こんど、ほれ、猿なんか栗なんかドングリなんか、木の実なんかもってきて捧げる。
 ところが、兎が入ったどこは野いちご畑だった。野いちご畑さ急にとびこんだもんだから、体じゅうが真っ赤になった。赤い兎は神さまの使いて昔はいうたもんだって。ほんで神さまの使いが急に出はったもんだから、熊も猿も狼も、みな平身低頭して、いろいろなもの捧げた。
 ところがその兎は何も知しゃねで、
「おれは、すばらしく偉いものになったんだな」
 と思って、こういう風に、夏みたいになって暑かくなった頃、水浴びした。ほして、
「これこれ、猿、何か持ってこい」
 て言うたら、猿は持って来ねがったはぁて、白い兎に返ったがら…。
「なに馬鹿語る。おまえ、只の兎だどれ」
 て()っだて。結局、赤い兎ていうな、昔から神さまの使いだって()っだ時代あんなだど。
 どんぴんからりん、すっからりん。
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