46 火車むかし、あるところに貧乏なお寺があったけど。そこに年寄の和尚さんがいて、 虎猫を小さいときから育ててかわいがっていたっけど。ある晩、和尚さんが寝床に入り、うとうとして夢を見たっけど。虎猫が話かけ るように、 「和尚さん、和尚さん、ながい間かわいがってもらったが、おれも永くは生きら れそうもないから、御恩返しに、明日 和尚さんが、ふと目をさましてみたら、虎猫がきちんと枕元に坐っていだっけ ど。和尚さんは、こんなこと、猫が言うとは思わねえが、と半信半疑で寝て起き たど。そしてその日、いよいよ荼毘になったけど。そして、お棺が立派なお寺の 前に据えられて、お経が始まったけど。そのうちに、一天にわかにかき曇り、黒 雲が舞い下り、みんな恐ろしくなり、目をふさいだど。そのうちに、お棺がずん ずん上に登って行ったけど。身内 「駄目だべや」 て言う人もあったが、頼んで来たど。そこで和尚さんは、昨夜 「ナムカラタンノウ、トラヤーヤ、ナムカラタンノウ、トラヤーヤ」 て何回も何回も大声で上げたど。そしたらお棺がズンズンと降りて、元におさ まり、無事に荼毘もすみ、和尚さんがいっぱいお布施もらって帰って来たら、虎 猫はぐったりと炉端に寝てだっけど。和尚さんが、 「トラ、トラ、お前のおかげで、こんなに沢山お布施もらって来たざい」 て言うたど。虎猫は、ああ、これでおれも御恩返しできてうれしいと言うたど。 そして、 「もし、いまちい て、血だらけの手を見せ、ああ、よかったよかったと言うど、そのままコロッ と死んだけど。和尚さん、泣き泣きねんごろに葬ったけど。それからは、あちこ ちから荼毘があれば、和尚さん、和尚さんと頼まれ、一生安泰に暮したけど。 むかしとーびん。 |
(川崎みさを) |
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