43 八十尋

 むかしあったけど。
 じんつぁとばんちゃいだども、子ども持たねがったど。そして何とかして子ど も欲しいと思って、鎮守さまさ日参したど。
「どうか、ええ..息子さずけて呉ろ」
 て。そしてばんちゃ産んでしまったども、肝心なもの喰付いていねがったど。
「じさま、こりゃ困ったごんだ。これ無いでは、仕様(ししょ)ない」
 て思って、また鎮守さまお詣りに行って、
「大抵、八寸ぐらいにええ..がんべ」
 て、こう思ったども、間違って、
「八十尋あるように、八十尋あるように」
 て拝(おが)んだど。そうしたばぐんぐん伸びて、長くて長くて仕様ないほど長くなっ てしまったど。んだども、仕方ないもんだから、直して呉ろてなんて頼まんねし と思って育てたど。そして大きくなったども、そんなものさ嫁の来とうもない。
「仕方ないから、お前、世の中広いから、歩ってみろ、もしや嫁もあっかもしん ねぇから」
 て出したど。そしてその辺で藁で編んだな「カッコダワラ」て、種籾など入れ るの、そのカッコダワラさ、八十尋つめ込んで肩さかつねて出かけたど。そうし て、ずっと旅して行くども、なかなかそんな嫁はないくて、大阪の方まで行った ど。そして行って、ええ..お天気の日に、松の木の下さ昼休みしったど。そしてカッ コダワラを脇さ置いて昼休みしった。そのうちに温かくポカポカちゅうもんだか ら、カッコダワラからヒョロヒョロと出はって来て、そうして松の木ヒョロヒョ ロと登って行ったど。そして天狗さまの鼻見付けっど、似たようなもんだと思っ て、プクッと突ついだど。天狗さま魂消てしまって、
「おれより長い鼻いるもんだ」
 て思って、その拍子に打出の小槌落して逃げて行ったど。天狗さまは、そうすっ ど下さ落ちて来たなて、目覚めだって。そうしてこんど見たば、見慣れぬ小槌あ るし、
「これは昔から聞いてる打出の小槌だに、相違ない」
 て、そう思って、
「よしよし、一つ試してみんべ」
「この、おれの長いもの、短くなっかなんだか」
 て、そして、丁度ええ..くらいの寸法言ったど。そうしたら丁度よくなったど。 「いや、これはええ..がった、これだとお嫁さんもあんべ、んだども、まずおれは 何も知しゃねもんだから、勉強しなね」
 て、そう思って、大阪の鴻池という家さ行って、番頭に働かせてもらったど。 そうしてこんど、一生懸命かげひなたなく働くもんだからはぁ、主人の気に入らっ で、そしてそこの娘の聟になってもらいたいと、こう言わっで、大阪の鴻池とい えば、音に聞えた旦那衆であったって。そしてそこの聟になって、こんど、
「実はこういう親、国元にいたから」
 て、話して、呼びよせて親孝行してあったど。
 むかしとーびん。
(川崎みさを)
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