35 化狸と和尚むかしあったけど。むかし、ここのお寺で、来る和尚さまも来る和尚さまも、みんな何か化物に食っ で、居ねぐなってしまうごんだど。あるとき偉い旅僧が来て、 「そんでは、おれはこの寺さ具(そな)わってみる」 て、こう言うたど。村の年寄りに。そしたら、 「いやいや、どんな和尚さま来ても、みんな食(か) っでしまって、駄目なな.だから、お前もそんなことしない方がええ..」 て、こう言うたど。 「ほだども、いやいや、おれば直らせて呉(く)ろ」 て、そしてその寺さ入ったど。そして夜になったど。一生懸命で火焚いて、こ んな石をあぶっておいたど。そしたらこんど、「今晩わ」て来たど。旅僧がな。 「和尚さま、和尚さま、一晩げ泊めて呉んねえか」 「ああ、ええどこでない。同業者だもの、どうか泊れ、入ってだか何も蒲団もな いから、おれも来たばりで腹あぶりして、二人で夜明かすぜ」 て言うたど。そうして泊ったど。まず夕飯の分、過して二人で腹焙(あぶ)りしたど。 そうしてその泊めてもらった和尚さま、ねむかけはじめたど。そうすっど、利口 な旅僧は火箸さ手掛けて、眠むかけすっど、こう頭下げっど、泊めてもらった和 尚さま、こうカエッポひろげて出したど。こう頭下げっど、グググッと包(くる) んでしまうど。そうしてこんど、 「ああ、やっぱり、おれ思う通りなだな」 て、こう思って和尚さま、こんど深く眠ったようにして頭下げっだど。そうすっ どこうひろげて和尚さまかぶせそうにしたど。そんで、来た和尚さま見えねえほ どひろげてしまったど。そんどき火箸で焼いっだ石、ひょいとその中さ入っだど。 そうすっどギャーッというもんで、戸開けて逃げて行ってしまったど。そして次 の朝げになったば、村の衆、 「和尚さま、和尚さま、いたが」 て来たど。 「いた、いた」 「何にもなかったが」 て言うて来たど。 「本当の和尚さまだか、化物でないか」 て言うずもの。 「いやいや、本当の和尚さまだから。来たけ、昨夜(ゆんべ)、化物、実はこれこれで逃げ て行ったから、裏のあたりに孔あんべから、そさ..みんなで行ってみんべ」 て。 「まず、村にありったけ、南蛮(唐辛子)集めて来い」 て、そういうたど。そして村の人は南蛮干しったの、ありだけ持って来たど。 そして裏の沢の方さ行って探してみたば、孔あったど、その、この入口さ火焚い て、その南蛮をいぶしたど。そしてこっちから一生懸命でその孔さ扇ぎ込んだど。 そしたば「ウンウン」て音してあったなだど。これぁ切ないもんだから、こんど カエッポさは焼け石入れられる。南蛮いぶしはされるしして、切なくて切なくて 這い出はって来たど。そこをみんなで叩き殺してあったど。それからそこのお寺 さ、何にも化物はぁ、現われなくて、その和尚さまはえらい和尚さまで過してあっ たけど。むかしとーびん。 |
(川崎みさを) |
>>お杉お玉 目次へ |