(7)落ちるのは拾え

 むかしあったけど。
 大石沢に、お寺の和尚さま、小僧一人持ってだけど。下叶水あたりの葬式あっ て、
「葬式だから、うちのところの和尚さまばりでなく、大石沢の和尚さまも頼みた いから」
 て言わっで、頼まっで出かけて行ったど。そうして塞の神の橋どこまで行った ば、橋の下、渕になってるもんだから、ハヤ(魚)いっぱい泳いんだずもの。
「雑魚いた、雑魚いた。和尚さま、ちいと採りたいな」
「何語っている。葬式さ行くとき、見るもの聞くもの、黙って来い」
 なんて叱ったずも。そしてこんど、また行ったば、風吹いて来たば、和尚さま の笠とんだど。んだども、黙って拾って、うしろさ隠しったずも。そしたらこん ど、ちいと行ってから、
「おれ頭に冠るものないな、こりゃ、飛んだの、なして教えね」
「見るもの、聞くもの、黙ってろと言わっだから、拾うは拾ったども教えねで、 隠しった」
 て、こういう風にして隠しったど。そしたら和尚さま、
「落ちるもの何でも拾え」
 て言うたど。それからまだ行ったれば、いまちいとで下叶水の橋さ行きそうに したら、こんど馬のって行ったげんど、和尚さま、馬糞たれ始めたずも、ボタボ タ、ボタボタと。こんど笠突(つ)出して、こう拾ったど。
「落ちるもの、何でも拾え」
 て言わっで、笠拾ったども、落ちるもの何でも拾えて言わっだからだど。
「この馬の糞、どうしたらええ..べ」
 て、和尚さまの前さ出したど。そうしてこんど、
「そんなことするもんでない、拾うったって拾ってええ..ものと、悪(わ) れものある。そんなもの投げろ」
 て言わっだもんだから、こんどはぁ、仕方なしに笠も洗って済(な) したべも。
 あんまり常々叱っていたからだど。そして和尚さまの負けだど。
 むかしとーびん。
(高橋しのぶ)
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