(3)小僧ごろし

 大石沢の寺で、和尚さま、小僧一人もって暮しったけど。そしてこんど、甕さ 砂糖買ってしまっておいだけど。毎日舐めていっども、小僧にめったに舐めらせ ねずも。
「何とかして、一ぺん舐めでみっだいもんだ。和尚さま、ちょっともらって舐め てみたいな」
 て言うたけど。そしたば、
「いやいや、これは小僧ごろしというて、和尚になんねうちは、舐めらんねもん だ」
 て教えらっだというもの。それから仕方ないから、小僧は黙って大人しくしっ たけど。そしてこんど、
「今日は、まず、おれ隣村さ用事あって行って来(こ)んなねから、気付けて、火危な くないようにして、留守番してろよ」
 て、そう言わっで、和尚さま行ったけど。今日こそ舐めて呉れましょう、和尚 さまいないうちと思って、戸棚の戸開けてみたば、上さいっぱい砂糖入っていた ずも。これ舐めてしまって、
「来たら叱られんだか、どうしたらええ..んだか」
 て、工面して、本尊さまのどさ持って行って、本尊さまは観音さまだ、観音さ まの口さ砂糖べったり塗ったど。それから毎日上げておくお仏器割って、和尚さ ま、大抵帰って来る頃だと思って、泣いっだずも。
「小僧、いま来た」
 て言うども、仲々戸開けない。そして「なんだ小僧」て言うたば、泣く音すっ し、何して泣いっだ、腹でも病(や)めっかと思って和尚さま入って行ってみっど、
「おれは、今日、和尚さまいないうちに、お仏器割ったから、申訳ないから、死 んでしまうべと思って、小僧ごろし舐めたども、まだ死なね」
 て、そう言うて泣いったずも。そして行ってみたば、
「いや、おればり舐めだでないども、なんだって空になってだ。観音さまも食っ たんだ」
 て、観音さまば池さ投げだれば、クタクタ、クタクタと孔あいっだどこから音 すっずも。
「そんじゃば、この観音め、舐めて小僧にかんずけた.....か」
 て、上げて叩くと、カーン・カーンというずす、また池さ投げれば、クタクタ クタクタと言うずも。そしたれば、和尚さまは、
「おれぁ悪かった。本当は、おれ、あんまり砂糖好きで、いじわるして、お前に 舐めらせないで、悪かったんだから、決してお前悪いのでないから、おれもこれ から回心して、うまいものあれば、分けて食(か)せっし、悪かった」
 て、和尚さまの負けだったど。
 むかしとーびん。
(高橋しのぶ)
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