30 猿地蔵

 むかしあったけど。
 じんつぁとばんつぁといて、じんつぁ、山さ火野(かの) うないに行ったど。ばんつぁ、
「くたびっだ(疲れた)とき、じんつぁ食(け)えよ」
 て、ノリモチ(米の粉で作った菓子)はたいて....、じんつぁに持たせてやったず もの。そして一生懸命でうなったから、
「御飯食って、寄越して呉(く)っだノリモチでも食って、昼休みでもすっか」
 なんて、それ食って、口のあたりさ粉つけて昼休みしったど。そしたら薮から 猿たちがガサガサと出てきて、
「オイオイ、ここさ地蔵さま眠っだから、持って行って、おらえの宝物にすっぜぇ、 おらだ」
 そうして、じさま、てんぐるま.....さのせて、つれて行ったど。そして行ったら、 大井川さ行ったど。そしたら猿たち、尻、クランとむぐって....、漕ぎ出したって。 そのうちにおじいさん、何か下げたど。そしたら、
「下ったはなんだ」
 て、一匹の猿は言うだど。次の猿は、
「延命小袋(こんぶくろ)に打出の小槌」
 て言う。そのうちにおじいさん、屁プウとたっだど。
「鳴ったは、なんだ」
「時の太鼓」
 て、おかしく性ないども、我慢してたど。そして自分の家さ着いではぁ、猿だ ち床の間さ、おじいさんば飾って、お金を持ってきたり、御馳走をもって来たり して上げ申して呉れたど。いっぱい溜ったところで、じさまそれ背負(ぶ) ってはぁ、猿のいない後に家さ逃げて来たど。そして、
「ばさ、ばさ、今日は面白いことあった。ノリモチもらって行ったな食って眠(ね) っだば、地蔵さまと間違えて、猿だち、おればかつねで....(かついで)行って、こら ほど御馳走や宝物上げて呉(く)っだからはぁ、それ持って逃げて来た」
 て、ばさまに見せて二人で楽しんでいたど。そうしたば、隣のばさま来て、
「お前たち、こらほどの銭だの何か宝物、なじょにしてもうけやった」
 て聞いてたて。
「おらえのじんつぁは、これこれであったど」
 て、ばさま教えたど。ほしたら、
「おらえのじさ、寝てばっかりいっから、やらんね」
 て、家さ帰って、
「隣のじさなど、これほどまず何かもって来たから、お前も早くそこさ行って眠 てろ」
 て、ばさま、ノリモチ、早く一生懸命ではたいて....、持たせてやったけど。そし て、じさまは畑うなわないで眠てたど。
 やっぱり、猿だち出てきて、
「いやいや、オイオイ、こないだ(この間)逃げた地蔵さま、また此処にいたか ら、持って行くぜ」
て、てんぐるま.....さのせて出(で) だしたど。そして大井川さ行くど、また尻むくって、 「ホイホイ」て、
「猿のふぐり濡れても、地蔵のふぐり濡らすな、ホイホイ」
 て漕ぎ出したど
「下がったは何だ」
「延命小袋に打出の小槌」
 そのうちにまた出たど。
「鳴ったはなんだ」
「時の太鼓」
 じさま、とても堪(こら)え切れないで、フフフと笑ったど。そうすっど、
「これは贋もんだ」
 て、一番深いどこさ、ゴホンと投げらっでしまったど。んだからずるいことで でなく、人の真似したりしないで暮すもんだけど。
 むかしとーびん。
(川崎みさを)
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