19 笠地蔵

 むかしあったけど。むかしの人ぁ、ゴザ織ったり、笠作ったりして、小国の町 さ売り出して暮し立てったもんだ。
 それ、弥蔵というおじいさんとおばぁさんがいて、おじいさんが、そのゴザと 笠売って正月の買物して来るて言って行ったど。
 叶水の向うに子持峠というどこある。そこまで行ったら、地蔵さまが正月頃だ から、みぞれに打たれて寒そうにしていたど。おじいさんが売るつもりのゴザを 地蔵さまに着せて、売るつもりの笠をかぶせて家さ帰った。
「ばさ、ばさ、子持峠まで行ったば、地蔵さまが寒そうにしったから、ゴザ着せ て、笠かぶせてきたわ。正月の買物は何も出来なかった」
 こう言うた。と、ばさま、
「ええ ..がった、ええ..がった。おれたちはこうして家にいるから、二人で話して何 もない年夜をしたわけだ。むかし年夜根っこ、年取り根っこと言うて、割れない 木をくべたものだ。その根っこで背中あぶりして二人で寝んべ」
 て、寝たど。そうすっど、音聞えた。
「ヤンゾウの屋形ざどこだべな。エンヤラサ、ドッコイショ」
 て、村の若衆、何、ふざけていんなだか、て二人で語っていたど。そのうちに、
「ここだ、ここだ」
 て、戸を開ける音して、ガラガラ、何か土間さ入れて行った。そして元日の朝 げ起きてみたら、着物から、アキアジ(鮭)だのいっぱい御馳走あったど。地蔵 さま恩返しに来たなだなと言ったど。
 むかしとーびん。
(川崎みさを)
>>お杉お玉 目次へ