16 カタコの孝行むかし、病気で臥(ね)てて、我侭な年寄あったずかな。まず、寒の内に、筍食いた いとかと言うもんだから、「いま筍なんてあるもんでない」 ども、せっかく年寄食いたいと言うども、あるどもないども、気休めに竹のあ るどさ行って見んべと思って、竹のあるどさ行ったれば、筍出てあったどかな。 そしてそれを採ってきて、年寄に食せた。 こんどそれを食ってまた、 「寒のうちの鮒って、なんぼかうまいもんだと聞いっだが、鮒食いたい」 て、そう言ってねだられるものだから、またあるもんでないと思ったども、行っ たれば、木さ下(さが)ってあったてな。ふらふらど。そうしてその鮒を取ってきて、焙っ て食(か)せっか煮て食せっかと思ってくる途中で、とっても疲れ、ひどいから休ませ てくろと、よくよくのぼっこれ小屋の火さあててもらって、休めてもらって、そ して立つとき、 「すまない話だが、おれの年寄死んで、この雪に投げるに投げらんね、困って菰(こも)さ 包(くる)んでだが、お前の火に当てたり、休めたりした代りに、死人を背負って、その 途中さ投げて行ってくる」 て頼まっで、死人を背負って来たというた。その死人背負って帰らんねし、こ こらの崖から投げっかなぁと背負ってた縄さ手をかけっど、 「カタコ、カタコ、投げべと思うなよ」 て、そう言われ言われして、なんとも仕様なくて家さ背負って来て、 「こんなもの背負って家さ入れば、家の、寝てる年寄たまげるから、そろっと勝 手口から入って降ろすべ」 て思って静かに降ろした気だったずども、そのとたんに、ジャクッという音すっ けど。年寄は、 「ははぁ、何背負って来た、カタコ。何かジャクッという音すっけぁ、何背負っ てきた」 て言うども、こういうもの背負って来たといわんねわけだべ、 「何にもないなだ。何にも背負って来たんでないども、雪だらけの足で入ったか ら、ゴツンと言うなだべ」 「いやいや、カタコ、カタコ、お前は今までは親に孝行して呉っじやが、おれ、 これほど聞たいと言うものを、お前はおれに教えないようなもの家さ背負い込む じぁ、あるもんでない。そんでは今迄の孝行も水の泡だ。大した親不孝ずうもん だ。お前は…」 て言わっで、 「実は、こういうもの背負ってきた」 とも言いかねて、勝手さ行って見たつうなだ。そうしたば、それ大判小判ジャ クジャクとなってやったってな。それも親孝行したおかげだという。こういう話 だべ、むかしとーびん。 |
(高橋きみの) |
>>お杉お玉 目次へ |