6 狐 女 房むかしあったけど。安名という人に、石川悪右ヱ門という人など大勢で山狩りに出かけたど。そう してこんど、みんな、ワァワァと狩ってるうちに、一匹の狐、手負いになってはぁ、 生命からがら逃げて来たずも。そうすっど、安名はむごさく....なって、とても自分 の狩のことなどよりはぁ、その狐助けだくなって、隠してしまったずもの。それ からこんど、 「どこさやった、どこさやった」 て、悪右ヱ門は一生懸命でただすども、 「おら、そんなもの知 (し) しゃね」 て、そして自分の陰さ隠して、そのうちに逃がしてやったずも。それからずっ と狩終して夕方になって帰って来てみたば、奥方は、葛の葉姫というのであった ど。それは上の方さ小間使いに行って留守なとき、安名帰って行ってみて、「オイ オイ」て呼んでみたば、出て来たずも。葛の葉姫がな。 「いま帰った」 なて、それからこんど仲よく暮しているうちに毎日、葛の葉姫は勤めに上って いたべし、安名はその下役で一生懸命その方の仕事して暮しったうちに、こんど 子ども生れだずも、男子 (おとここ) 。そしてそれを童寿丸と名付けたけど。そしてめんごがっ て、めんごがってはぁ、大きくなって来た。日増しおがるな分って。よくおがっ て、利口な子になって、二つ、三つにもなってから、安名、勤めに出っだうちに、 その童寿丸ば乳くわえらせて昼眠したずもの。そしてこんど昼眠しているうちに、 やっぱり獣 (けだもの) は昼眠してっど、本性抜けしてしまうらしく、よく眠っていたとこ さ、安名帰って来て、その狐の姿なってたどこ見つけてしまったずも。それから、 「オイオイ」て言葉かけたども、見つけらっだもんだから、「ハイ」て出てきたも のの、万一、この姿見つけらっでは、ここには、おれはいらんねと思って、その 親父の勤めに出はった後にはぁ、また子ども寝かせて書置したど。 恋しくば尋ねきてみろ泉なる 信太の森のうらみ葛の葉 て、そう書いて、そして信太の森さ行ったずも。そしてこんど、童寿丸は泣いっ たずす、それから安名は、あんまり泣くもんだから、背負 (ぶ) って行ってみたど。信 太の森さ尋ねて。そしたば年寄った狐、プンプンと降りて来るから、 「オイオイ、そんな姿で来ては、童寿丸、恐っかながっから、元の母の姿で来い」 て、そういうど、またクランクランと、とっくら返って、葛の葉姫になって帰っ て来て、 「よくよく、童寿丸、おれの言うこと聞けよ、おれはこういうときの巻狩りに、 おとっつぁんに助けらっで、恩返しに母親の姿になって生んだなだども、人間界 に長くいられる身でないから、よっくおれのいうこと、年行かなくとも聞き分け て、近所の子どもば、いじめたり、近所の坪山を荒したりしないで、立派に育っ てくろ」 て教えたば、小さいながらもうなずいて、そうしてこんど安名に背負 (ぶ) さって、 もどって来てはぁ、立派な若衆に成長したど。 むかしとーびん。 |
(高橋しのぶ) |
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