29 義経と弁慶

 むかしあったけど。
 義経と弁慶、戦(いくさ)のとき、ある山の上で陣取っていたとき、
「何だか、弁慶、トロロ食いたい」
 なて、こう言うたど。
「谷間さ降りたら山の芋掘られんべから、おれ作って来るわ」
 て、「御主人のごんだもの」て、弁慶降りて行ったど。義経、
「あんなこと言うて、弁慶は芋は掘られっかしんねぇども、なじょにして擂るもんだべ」
 て、そう思って、山の上さあがって、弁慶ば見たど。そうしたれば谷間さ行って見て、山の芋ぁ見つけて掘ったど。やっぱりそのうちに昔のオベントウ、それさ弁慶、山の芋きれいに洗って、ガリガリガリっと噛んでは、ホロキ出し、ガリガリガリっと噛んではホロキ出しすっどな。弁慶は…。そしてこんどは、ええ加減溜ったとき、こんど味噌入っで、ガェロガェロかましてはぁ、持って来たど。
「いや、ひどいもの、これは食せられるもんだ」
 て、義経、そう思ったどなぁ、そうして、
「弁慶、世の中で何一番汚ないと思う」
 て、こう言うたど。弁慶は利巧な人であったどな。
「人のすること見ないふりして見てる人が一番汚ない」
 て、そう答えたど。仕方なくって義経は弁慶噛み出したトロロ食ってあったけど。むかしとーびん。
(川アみさを)
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