28 西行法師むかしあったけど。西行法師は毎日、旅から旅とずうっと続けて行くうちに、ある日小山越えて行かなね時あったど。そうしてこんど、あそこ部落見えっども、いまちいとだも、 「ウンコ出て、とても我慢でなくなったから、ここらでウンコすまして行くべ」 と思って、ウンコして、そして立ってみたら、萩またいで足で踏んでた上さ、ウンコしてあったずも。そして避けっど、ピンとはねでしまって、ウンコもはねたど。したらば西行法師、 西行はいかなる旅もしてみたが 萩のはが糞 これは初なり て詠んで、またずっと山越えて行ったら、 「あら、いま少しで部落さ行くのに、またウンコしたくなったから、この窪地ですまして行くべ」 と思って、こんど窪地さかがんで、またウンコしたど。そして下見ないでウンコして、すまして立ったら、蟹の背中さウンコしてあったど。蟹、ウンコ背中さ背負ってはぁ、わさわさと横さ出かけたずも。そうすっど、 西行はいかなる旅もしてみたが 糞の横這い これは初なり と詠んでまた行ったど。そしてようよう部落さ行き着いて、チリンチリンと鉦(かね)鳴らして行ったば、若いおっかさ戸開けて、福田(ふくで)餅半分呉ったど。その日は十五日であったそうだ。そして夕方になってから十五夜の月、あそこの山さ顔出しはじめたときであったど。 西行はいかなる旅もしてみたが 十五夜の月の半月 これは初なり と読んだずも。そしたらおっかさは芋を半分持ってきて、 月に半月なけれども 雲にかくれて ここに半分 と詠んだけど。そしてこんど、西行はそうしたれば、 西行はここも旅 また行く先も旅なれば いずこの旅にわれぞなるらん と、そう詠んで、また立ったど。そしてまたずっと旅さ出かけたど。むかしとーびん。 |
(高橋しのぶ) |
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