23 栃 餅むかしあったけど。おれみたいな婆さま、どさも行けぬで、山、大好きなもんだから、山さ遊びに行ったずもの、そしたば大した何も採らんねけども、秋の彼岸頃に行ったもんだから、栃一つ拾って来たど。それから家の下手の道傍さ植えっだらば、ずんずんおがってはぁ、実なるようになったずも。そうして秋の彼岸のあたりは毎年台風つよく、こっちさ当って来るもんだからな、栃の口開いたどこさ大風吹いて、ゴーと吹いて来っど、ポターッと落ちては、くりっとむけてはプンプラ、プンプラと流れっずもの。その土手の堀さ。「ああ、また落ちた」 て、子どもら行ってはぁ、笊つけて拾って二・三十拾ったから、 「これあれば、たくさんだから、まず餅搗くべ、正月まで待ちていらんねから、すぐ搗いて食うべか」 なて、搗いたど。そしてこんど、餅搗いたども、はぁ、どさもやんねで食べてしまったずも。そうしたらば、隣の家の息子、 「とんとん隣で栃餅ついたども、おれ行ったども呉んね、かかカン鍋貸すな、じさズイ貸すな、とっつぁトックリ貸すな」 て言うたけど。 んだから好きなもの、隣でないときは、分けて上げるようにするもんだけど。むかしとーびん。 |
(高橋しのぶ) |
>>鬼と豆のくいくら 目次へ |