21 和尚と小僧

 和尚と小僧が、旦那の家さ行ったところが、橋のところに、『この橋渡るべからず』という立札が立っている。で、和尚さんが先になって行って、
「この橋渡らねで、どうして行ぐ」
「いや、お師匠さま、お師匠さま、これは旦那さまが親切で、端を渡っど年寄に子どもだから、川のこの下の堀さ落ちっどわるいから、旦那さま、親切に真中渡れていうので〝この端渡るべからず〟と書いてあんなだから、真中渡って行くべ」
 こう言うて、渡って行った。んで、お勤めも終って、いよいよ御馳走になるときに、旦那さまが、
「小僧、小僧、お前は字見えねなだか」
「字は見たものは、見えるし、見なかったものは見えないし…」
「橋んどころで何見てきた」
「この橋渡るべからず、と書いてあんの見てきた」
「なして、おまえ橋渡ったのだ」
「端、渡んね」
「どこ渡った」
「真中渡った」
「なして真中渡った。あれも橋だ」
「いや、あの橋はきっと旦那さまの家の橋だども、端の方さ上がるとヒックラ返えっか何か危いから、端は渡っては悪いて言うので、立てて呉っだんだべと思って和尚さまとわたしは真中、そろっと渡ってきた」
 て言うたど。
「んだら、このお汁(つゆ)はうまいお汁なんだげんども、蓋とらねで食え」
「お寺さまは蓋とって食うもんだ。蓋とって食うもんだて教えていんな、蓋とんないで食えなんて、そんな無理なこと言うて、おれは食うわけに行かない」
「どうでも、蓋とんないで食え」
 と。「はい」。そんでお膳をもって、旦那さまんどこに行って、
「どうか、蓋押えて下さい。蓋取んないで、私上がらせていただき申すから、蓋逃げっど悪いから、がっちり押えてて下さい」
「よしよし、押えていっぞ」
 お膳をすうっと引っぱってもって来て食ったど。それでまず家に帰ったところが、旦那が寺に遊びに来た。
「小僧、小僧、今日何しった」
「何しったて、お寺さまから、いろいろ教えてもらって居り申した」
「ああ、そうか、なかなかええ小僧だな、お前は…。ついてはそのお前は、生(なま)臭(ぐさ)を食ねという、嫌うという。どうも寺の中を見ると、生臭がある」
「何だべ、旦那さま」
「一番先に太鼓だ。あれは皮だ。生臭でないか、なんで、こともあろうに仏さまに飾っておくのだ」
「はい」
「んで、それと同じように、旦那さまのその毛皮のちょっきも、してもええがんべか」
「いや、ええどこでない。その通りにしねばなんねぇごで。お前。同じ待遇してもらわねでは、どうもおれも気持が悪い」
「はい、しばらく待って下(く)だれ」
 そして本堂からバチを持ってきて、お経を上げ始めると一緒に、背中からそのバチで旦那さまんどこ叩いたけど。
「いやいや、小僧待ってくれ、待ってくれ。今日はおれも負けた」
 こう言うことだったけど。
(塚原名右ヱ門)
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