20 南の兄んにゃ ― 南の山の馬鹿聟 ―(1)クキナ漬酒盛りも終ったもんだから、 「聟どの、聟どの、湯さ入ってござれ」 て言わっだども、聟どのは湯さ入る術(すび)知しゃね。何せぇばええか分んねもんだから、もじもじしていたところが、仲人が脇にいて、袖引っぱる。袖など引張ったって、湯さ入らんね。「こう着物脱いで入んのだぞ」そんで、そこの場所で脱ぎ始めた。 「こらこら、風呂場さ行って脱げ」 て言わっで、風呂場さ行って、流しさ行って、脱ぎ始めたど。褌したまんまで湯さ入るべど思ったら、手伝いに来ったところの女衆が笑う。で、 「なんだべ、聟どのは褌したままで、湯さ入んなだべか」 と言うことで笑った。んで仲人が魂消て来て、「それも取って入れ」と。それを脱いで風呂に入って、入ったところが、熱くてとても入れるもんじゃないで、キンタマ、がんがんて言うのを押えて、 「手伝い衆、手伝い衆、熱くて仕様ないから、クキナ漬け呉っでおくやい」 て言うて、もらって食ったけど。むかしどーびん。 (2)数の子 南のあんにゃ、仲人と一緒に寝っだども、昼間食った数の子の味がどうにも忘れらんね。 「ああ、うまくてうまくて、どうもいま一度食ってみっだくて仕様がない」 それから、こんど、そろっと起きて、水飲むふりして、流しさ行ってみたところが、甕があった。甕そろっと覗いてみたら、その数の子が入っていた。それで南のあんにゃは、甕の中に頭を突込んで数の子食った。一生懸命になって。数の子食った。そして取んべと思ったところが外さ行って、かがんでいた。畑の隅に行って、どうしたらええべと思って、こうしていた。 ところが、仲人が出てきて、便所(せんち)さ入ったど。便所さ入ったところが、あいにく紙も柿葉もないがった。ほんで仕様ないもんだから、表まで出はってきて、畑の傍まで来て、石で尻(けつ)、パエッと拭いて、石、ポーンと投げてやった。そしたら甕さ、カーンと当って、ザクッと割れた。ほしてヒョコッと立ったどころが、仲人は、 「なんだ、あんにゃ、何しったんだ」 「まず、甕、頭から取れなくなっていたな、おれぁ丁度お前に石ぶっつけてもらって、ええがった」 て、寝たわけだ。 次の日の朝になって、また酒盛り始めると、仲人は。鶴亀の話をうたった。 「池のみぎわのツルカメは…」 て言うど、聟は「石で尻(けつ)、石で尻」、そう言うてだっけど。むかしどーびん。 |
(塚原名右ヱ門) |
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