18 鴨とり(1)

 むかし、あるところに、鴨とったり、狢とったりして商売にしているじさま、いであったずも。 このじさまというのは、鴨とり上手で、秋になっど、沼さ行ってその鴨とってくるなだけど。 そして、その鴨ぁどうやってとるかというど、延べ縄を張ってとるのだけど。 こういうとこまでは分るども、誰にもその秘伝というものを教えねがったじんつぁであったど。そのじさまは、
「おれぁ、お前がたと違って、鴨とりぁ一番上手なんだから」
 と、また自慢こぎで、人からどうもあまりよく言わんねじんつぁであったど。 そのじんつぁが、ある年の秋、いつものところさ延べ縄を張っていたなさ行って見たところが、 鴨、ずいぶんいっぱい掛かったわけだ。それでじんつぁはその鴨、キィッと首をひねって、そして腰に一羽さし、 またキィッとひねっては一羽さし、またキィッとひねっては一羽さし、そしてずうっと腰の帯んどこさ、 ひねってさしたところが、帯いっぱいに鴨なったど。そして、じんつぁがひょっと油断したときに、 一羽の鴨がバタバタていうど、その鴨がバタバタ、バタバタって飛んだもんだから、 じんつぁは空高く舞い上ってしまったど。
 そうしてずうっと高く上って行ってしまって、そうしているうちに、みな元気ええぐ羽ばたくもんだから、 その、鴨一匹抜け、二匹抜け、三匹抜け、抜ければ抜けるほど、帯がゆるんできたもんだから、鴨みな逃げてしまった。 じんつぁは真逆さまに下さ落ちてきた。 て、こんど下さ落っだ拍子に、目の玉二つ、ベロリ何処か吹飛ばしてしまった。 それから、じんつぁは困ってしまって、
「やれ、目玉なくなった」
 て言うわけで、その辺のところを一生懸命に探(さぐ)ったところが、丸こいもの二つ見つかった。
 それでこんどは、まず目玉をはめて、
「どうも見えない」
 もう一つ元通りに嵌めたら、見えるようになった。それでまず、
「今日はひどい目に会った。こんなこともあるもんだか、さぁ、どうもひどい目に会った。が、自慢こきしたおかげなんだか…」
 なて、考えながらその日は家さ帰ったど。 そしてこんどは、家さ帰っているうちに、だんだん頭病(や)めてきたど。 そして「頭病める、頭病める」ていたところが、この目のどっから、栃の木の芽出てきた。 さぁ、その栃の木ぁ大きくなって、実なるようになった。 さぁ実なったもんだから、じんつぁ、鴨とりぁしたいげんども、栃の木、邪魔になって、鴨とりは行かんねし、 仕事はできないし、仕方がないから、栃の木の実を、「トチ、トチ」と言って売って歩(あ)るったど。 ほうして栃を売って、まず暮しったわけだが、そのうち栃の木、枯れてしまった。 んで、枯れたもんだから、まず邪魔になる栃の木枯れたもんだから、
「なんだ、じさま、邪魔になる栃の木、枯れたな、喰付けて歩(あ)るってはうまくないから」
 て言うて、隣近所の衆が寄ってたかって、じんつぁの栃の木、鋸で挽いてとって呉っだど。 そしたところが、こんどはその栃の木の根っこさ、ナメコ出た。ナメコ出たもんだから、じんつぁは、
「これぁええあんばいだ」
 て言うんで、「ナメコ、ナメコ」て言うて、そのナメコ売りして暮したど。 ところがナメコ売りしているうちはええがったども、木ぁだんだん腐ってきて、真中に窪み出てきて、ナメコも出なくなったど。 窪みのところさこんど水溜ったずも。 水溜ったとこさ、手そろっと入っでみたところが、コチャコチャ、コチャコチャて音立てる。 なんだと思ってみたところが、こいつぁフナ溜っていた。 それで「フナ、フナ」て売って、じんつぁは暮したけど。 むかしどーびん。
(塚原名右ヱ門)
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