15 かくれみの

 ある村に、おじいさんとおばあさんと二人暮ししていたけど。そうしてこんどおじいさんは山さ畑つくってで、そこの草取りに行ったずも。そして、
「あんまり暑いから、休むかな」
 て思って、尻ついて、
「夕方にもなったし、休んで帰りましょう」
 て思って、休んでだら、何だか人の喋るような声すっずもな。よっく聞くど、何か洞穴にでもいたでないかと思うような感じすっけから、ずうっと声する方さ行ったど。そうしたば木の壕(ご)洞(うら)って言うわな、朽ちて中穴になっていたどこさ、そこさ行ってみたば、天狗二人いたけど。そうして何しったと思って、そっと覗って見たば、二人で踊りおどっていたど。
   一飛べ 二飛べ
   一飛べ 二飛べ
 てはぁ、二人ではね上って踊っていたっけど。はぁ面白そうで、じんつぁ耐(こた)えらんねから、「おれも嵌ってみましょう」て、「一飛べ、二飛べ」て入って行ったずも。そうすっど天狗、よろこんで、よろこんで、三人で、
   一飛べ 二飛べ
   おれも嵌って 三飛べ
 て、しばらく踊って、
「あまり上手だから、帰るときに駄賃に、かくれみの呉れてやる」
 て、蓑もらったど。そうして余程いたましい羽根だども、飛ばんねど悪(わ)れから
「この羽根つけてやっか」
 て、羽根二本つけて、その蓑もらったど。そしてこんど、
「どがえだか、飛んでみっか」
 て、その蓑着てるうちにぁ、ぐうっと飛んで行ってしまったずも。そしてこんど、いま少しで家さ行き着くようになったども、とってもオシッコ出てはぁ、堪えらんね。かくれみの着たまんま、オシッコしたずも、飛んでて…。そうしたば、そのかくれみの、せっかく前合(あ)せっだな、そこ孔あいてしまったど。村の人は、「なんだ、アレだけ飛んで行く」て見たど。そしてそこだけ出して家さ帰ったれば、ばさ、そこだけ歩いてるのを見て魂消たど。
「ばさ、ばさ、いまちいとで家さ帰る頃になったば、オシッコ堪えらんねで、小便たっで、かくれみのさ孔あいてしまって、あんばいよく飛ばんねけがら、ここ僅か歩いて来たども、天狗さまにこういうものもらって来た」
 て、そうして大事にしまっていたど。
 したば、そして次の日になったば、天狗、
「じんつぁ、じんつぁ、何としった」
 て来たずも。して、
「昨日はええ蓑もらって飛んで来たども、家さ、いまちいとで来るときはぁ、オシッコ堪えらんねで、途中で飛んだまましたら、肝心などこ孔あいて、チンチン出はるようになった」
 て言うたど。そしてこんど、
「んだら、これ貼って呉れっから、おらいたどころさ来い。着て来い」
 て言わっで、それ修繕してもらって、またその〝みの〟着てその洞穴さ行ったけど。そしてまた、
   一飛べ 二飛べ
   おれも嵌って 三飛べ
 てはぁ、楽しく踊って、そしてこんどは大丈夫にしてもらって、そのかくれみの着て家さ帰ったど。ほしたれば、ばんつぁは大喜びしたずも。むかしとーびん。
(高橋しのぶ・川崎みさを)
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