10 大入道の話

 むかしあったけずも。ここから新股さ行くようなところの、山道を通って行かねばなんね場所あったど。
 そこんどころに、いつともなしに大入道が出るという話が出たずも。夜行ぐど大入道が出るというんで、夜は誰もだんだんに通らなくなった。んである時に、
「そんなことないべぇ、おれぁ行ってみんべ」
 と言うので、荒気こぎぁ、提灯を点けて、トコトコ、トコトコと行った。途中まで行ったところが、沢のところに降りて行ったところが、向うの方から大きいものが来た。 どうも、ひどく大きいものある。三丈もあるような入道だ。それで提灯点けて行った大将が提灯をそこに投げつけて、村さ帰ったわけだ。
「大入道、本当に出る」と。
「とても恐っかなくて、あそこに行っては駄目だ」
 と、こう言うたところが、村の人だちの中に、
「何、おまえ、常に荒気こいでいっどこ、そんな大入道なて出るもんじゃないんねが、この世の中に化物なんてあって、たまるもんでない。お前、そんな嘘語ってみたたて、それまたお前のデホダレだべ」
「いやいや、あれ、本当(ほんて)のことだども、おれぁデホばり語っていたども、こんどのことは本当のことなんだから、お前嘘だと思うなら、お前行ってみろ」
「そんだら、そんな大入道なの出て、お前なじょして帰って来た」
「おれぁ、提灯、仕合せなことに持って行ったもんだから、提灯投げつけで、そして帰ってきたんだ」
「んだか、んだら、おれぁ提灯持たねで行って見っか、必ずおれぁ行って隣村さ泊って明日帰って来っからな」
 こう言って出はって行った。
「なんだごど、語って行った。大入道におんつぁれでもしないば、ええな」
 と言って、まず荒気こぎは行ったど。そしてその次の日になって、待ってでも帰って来ない。
「こらぁ、どうしたことだべ」
 て言うんで、不思議に思っていたところが、その道の真ん中に殺されていたところを教えて呉(く)っだ。
「あそこで殺さっでだ」
 と。ほんでまず、仕方ないから、村につれてきて、荼毘(だみ)出して終したずも。ど、そこんどころに侍が来て、「お前たち何だ」ど。「こらぁ荼毘出しだ」「何したんだ」
「いやいや、これ非常に荒気こぎで、大入道出るて言うども、こんなものはあるもんでないて言うて行ったなだ。途中で殺さっだのだ。何に殺さっだもんなんだか、見た人ないから、分んねんだ」「ほうか、そんなことで、お前だも困んべ」「いや、困るどこの話でない。こんな出ないで呉れればええなだども、どうにも仕様ない。われわれの力ではどうもなんね」
「よしよし、ほんじゃ、おれ、退治して呉れっから」
「いや、お侍さま、それ退治などして呉れっこんだら、まず、ほんにありがたいことだ。おらだも、お侍さんの家来になんべ」
「んで、どうやって行ったんだ」
「提灯持って行ったのは、提灯投(ぶ)っつけて帰って来たど。持って行がねものは殺さっだんだ」
「んだか、んじゃ、おれも提灯持って行くど、おれんどこなど、大入道の方でも恐っかなぐなって、寄って来(く)づがんねがも知んねがら、おれも持って行かねべ」
 こう言って、提灯持たないで、夜になっど出かけて行った。
「いや、こりゃええあんばいだ。なんぼ化物が強いったって、あの侍、髭も立てっだけし、刀も持っていることだから、退治して呉(くれ)んべ、ええあんばいだ」
 て、村人は次の日の朝げ待っていたど。んで、帰って来ないもんだから、村人と一緒に行ってみたところが、刀に手も掛けないで、喉笛噛み切らっで、バッタリ倒っでだ。そうして、仕方がない、こんどはみんなでどこの侍だかも分んないもんだし、葬式を出して、荼毘終わって、そしてこんど討議しった。そこの村の一番の年寄りが、
「いや、これは大入道は、おれ退治してくる。おまえだも困んべし、おれはこの年になって退治しぱぐって、この侍みたいになったら、お前だ荼毘出して呉れるだろ、おれ退治してくる」
 こう言って、討議の場所から杖棒ついで、トボトボ、トボトボと隣村さ行った。そしてものの一刻も経ったかと思う頃に、コトコト、コトコトというて帰って来たど。
「こんど、お前がた、あれだぞ、大入道は退治したぞ」
「なんだ、じんつぁ、そんな、その、早っから帰ってきて、大入道退治したなて」
「これだ、これだ、大入道はこれだ」
 何だと思ってみたところが、それはミコシイタチであった。ミコシイタチのこんな小さいのを、プラプラと、こう持(たが)って、
「大入道、これだ」
「じんつぁ、また、おらだば騙(だまか)すのでないか、そんな馬鹿なことあるもんでない。大入道なていうの。これだど。こんな小さいもんでない。どうやった」
「いや、これはな、おれも行ったら、向うから大入道が来た。それで大入道が来たけれども、おれも行った。杖棒ついだから、向うが来たとき、ぶっつがるもの杖棒が先にぶっつかるわけだから、行ったんだ。そしてこのぶっつかりそうになったとき、土際をないだ。そしたら、パシーッと当ったのが、これだ。それと同時に大入道が消えてしまったんで、今までの化物はミコシイタチだ」
 て言うた。
「みんなば、上向かせて、喉笛を噛み切って血吸うために、その大入道になったんだぞ。お前がた、これ知しゃねがったんだ。これ、荒気こぎも可哀そうなことしたし、お侍のどこも可哀そうなことしたども仕方ないごで。まずこれで今度は出ないからな」
 と言うたど。むかしどーびん。
(塚原名右ヱ門)
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