8 猫 股 ― 火車 ―ある山寺に、虎猫を大事にして飼ってる和尚さんがおった。しかし、このお寺さんというのは、弟子にちょっとしか付かなかった為に、お経をよく知らなかった人だ。それで、誰もお詣りにも行かなければ、頼んでもくれない。それで困ってしまって、食うや食わずの生活をしておった。その猫が言うには、「長い間お世話に、お寺さんにはなりました。いずれそのうちに、檀家のどこそこの人が死ぬので、その時にわたしはあらゆる力をふるって、最後のお礼のお返しをしたいので、ナムカラタンノー、トラヤーヤー、トラヤーヤー、トラヤーヤーととなえて呉れ、後は何というて呉れても結構だから、やって呉れよ」 て言うて、その晩から居なくなるわけだ。その晩から居なくなっているうちに、その向いのおじいさんが年取って死んでしまって、いざ荼毘(だみ)出しになった。荼毘出しになったところが、行ってみたら、真っ直ぐになったまんまで、棺に入れることができない。 「はぁ、そういうのか」 と言うので、お寺さんが体を撫でながら、「ナムカラタンノー、トラヤーヤー、トラヤーヤー」と体を撫でさすってやったところが、こう体が自由になるようになって、無事棺におさめることができた。それから、いよいよお葬式になったところが、棺の蓋が葬場に行ったら、空中にこう上がってしまった。ファーと上がってしまった。んでそのお寺さんが、 「ナムカラタンノー、トラヤーヤー、トラヤーヤー」 と言ってるうちに、だんだん、だんだんと下って来て、元の通りに棺におさまった。それからお寺さんは、「ナムカラタンノー、トラヤーヤー」とだけは言っておれないんで、 「向うの屋根の下には干場が一れん、二れん、三れん、四れん、五れん、六れん、七れん、八れん…」 と言うて、お経を長くとなえて、無事に葬式を終した。それからと言うものは、非常に法力のきく、お寺さんであるということになって、周りからよく頼まれるようになって、幸せに過ごしたど。 |
(塚原名右ヱ門) |
>>鬼と豆のくいくら 目次へ |