5 地蔵浄土むかしあるところに、じいさんとばんちゃといであったど。隣りにもじさ、ばさで暮しった。そして隣のじさ、ばさは非常に慾たかりなもんだから、これは割合いに楽に暮していっども、片方のじんつぁとばんちゃは、お人好しなもんだから、乞食(ほいと)来れば呉っでやる、旅の者が来れば泊めてやる、するもんだから、節になっても正月米もないような状態だった。「ばば、ばば、困ったもんだ。正月米もないぐなったが、隣の家さでも行って借りて来ねば、なんねべな」 「ほだなぁ、隣のじんつぁ、ばんちゃなの、貸して呉れるんだか、なんだか」 「貸して呉れるんだか、なて言うても、正月だもの、何とかして固まったものでも神さまさ上げねでは、悪いぜ」 て言うので、隣の家さ借りに行ったところが、 「やぁ、お前の家では旅の者来れば泊める。乞食(ほいと)来れば呉っでやる。常日頃ふるまってで、そしてこの節になってから、正月米ないから貸して呉れなんて、とんでもないことだ。おらえの家さはそんなさ貸すのはない」 「いやいや、そんなこと言わねで、まず、おらえの実状は正月に上げるものもなくて、困っているのだから、呉っだおかけで、こうなったと思えば、呉っだこともうらめしいような気もすっども、それもそん時、仕方ないなだていう、何とか貸して呉れ」 と頼んだ。ところが、 「ほんだら、これでも持って行って、拵えで上げたらええがんべ」 て言うて、シナを貸してくれたど。それから、ばばは帰ってきて、 「じんつぁ、じんつぁ、シナ借りてきた」 「ああ、それはええがった、ええがった。んだら、シナ、挽臼で搗いて団子作って上げんべ」 て言うんで、ゴロゴロ、ゴロゴロと挽いて、粉を作った。そしてその粉を水で練って団子を作ってゴロゴロ、ゴロゴロと作って見たところが、あんまりちいとだったので、一つしか出来なかった。そしてガラガラ、ガラガラと煮立っていた湯の中に、団子をポロッと入れんべと思ったら、囲炉裡の隅さあいっだネズミ穴さ、コロンと入って行った。コロコロ、コロコロと入って行くもんだから、やれ、いたましやと思って、じんつぁはそっから追掛けて行ったど。そうすっど、コロコロ、コロコロと団子入って行く。じんつぁはその後から、 「団子どの、団子どの」「はいはい」「どこまでござる」 「新座の宮の甍葺きの地蔵堂に参る、参る」 「団子どの、団子どの」「はいはい」「どこまでござる」 「新座の宮の甍葺きの地蔵堂まで参る、参る」 こう言うて転んで行く。どこまでもどこまでも行ったところが、甍葺きの地蔵さまあって、地蔵さま口動かしていっから、 「地蔵さま、地蔵さま、いま団子来ながったべか」 「団子、来た。どういうのだ」 「実は、あの団子は隣の家から米借りてきて、やっと作って、神さまと仏さまさ上げんべと思って、茹っどきに間違って落してしまった団子だ」 「いやいや、それは可哀そうなことした。おれがそれを、みな御馳走になってしまった。仕方ない、おれぁ御馳走になってしまったから、お前、日も暮れそうになったし、こさ泊れ」 「ほんでは泊めていただくか」 ところが、その地蔵は、 「この家の前さは、今日、鬼どもが来て、博奕打つ」 「いや、それは恐っかないことだな」 「いやいや、恐っかないなて言ってねで、泊れ。おれのこの頭の上のツシさ上がって、泊ってろ。んで、ちょうどええ頃になったら、鶏の真似三べんせぇ。そうすっど三番鶏鳴くと鬼どもは帰って行く。んだから、それから明るくなったら、お前帰ればええごで」 「んだげんど、地蔵さま、どうやってこのツシさ上がるんだべ」 「いやいや、おれの肩さ上がってええから、ここから上がって行げ」 「地蔵さまば踏み台なんて、もったいなくて、おれぁさんね」 「ほんなこと言ってっど、今に鬼が来て見付けられっぞ」 こんど、 「ほんではまず、ごめんして呉ろ」 と言うわけで、ツシさ上がった。んで、ツシさ上がっていたところが、虎の皮の褌をした赤鬼、青鬼、ゾロゾロ、ゾロゾロと十人ばかり集まってきて、博奕打ちはじめた。「一両だ。五両だ。丁半、丁半」て言うて、その博奕打ってる。誰ぁ勝った、彼ぁ勝ったて言うてる。火焚いて面白そうにしてやってる。じいさんもそれを見てっどいうど、なるほど博奕というのは、ああいう風にしてするもんだか、はじめておれぁ見せてもらったと思っていたところが、下の方で地蔵さまゴソゴソ、ゴソゴソというような気する。 「それは、ほだほだ、今があれだか…、コケコッコー」 て、鶏の真似をしたところが、 「おお、一番鶏鳴いたなあ、ああそうが、こんど倍掛けだぞ。よけい掛けんべ」 て言うので、またやった。 「はぁ、こんがえにいっぱい取った方にも出したし、なくなった方にも出たようだな」 て見っだところが、また地蔵さま動くような気する。 「ああ、ほだほだ、コケコッコー」 「ああ、二番鶏鳴いた。こんど三番鶏鳴くど、おしまいだぞ」 また賭けてやってだ。ほどええと思って、「コケコッコー」て鳴いたところが、 「はぁ、三番鶏鳴いてしまっては困る。早く帰んべ。また明日の晩も来(く)んなだから…」 て言うわけで、そこさ置きっ放しにして、鬼たちは帰って行ってしまう。そうやってるうちに夜が明けた。そうすっど地蔵さま、 「じさ、じさ、降りてこい。鬼共ぁここさお土産置いで行って呉っだから、もらって行げ」 そう言うて呉れるもんだから、 「地蔵さまに、おれ呉っでやっから、もって行げて言うもんだから…」 その大判小判をもって、じんつぁは帰ってきた。そしてこんど、隣の家さ行って、 「じんつぁ、じんつぁ、おれもひょっとしたことで、金も手に入ったから、どうか米売っておくやい」 て、こんど金を出したもんだから、心よく米を売って呉っだ。情深いじいさんは、家さ帰ってきて、それで餅を搗いて、神さまや仏さまさ上げたわけだ。そうしたところが、隣のじさま、 「じさま、じさま、前の晩げ、何もないからなんて言って、おらえさ米借りに来た。次の日は金持(たが)ってきた。どうも不思議でないか」 正直なじさまなもんだから、そのことを話して聞かせたわけだ。 「そうか、そんじゃ、おれもやってみんべ」 隣の慾たかりのじさまは、家さ行くやにわに、 「ばさ、ばさ、シナ持ってこい」 「なえだ、じんつぁ、シナなて、正月早々持ってこいなんて…」 「ええから、何でもええから、持ってこい。挽臼だ。挽臼、挽臼…」 なんて、そのシナを挽臼でひいて、団子を作って、囲炉裡さ鍋かけて、ろくに煮立ちもしないのさ、団子ゴロゴロと丸めて、囲炉裡の隅のネズミ穴さ入っでやった。ゴロゴロ、ゴロゴロと入(い)っでやった。すぐゴロゴロと行っては止まる。 「この団子、うまくない団子だな。ゴロゴロと行かねばなんね、お前は…」 足で蹴っぽったり、棒で押したりして、追かけて行った。ゴロゴロ、ゴロゴロと行ったところが、その地蔵さまいた。 「地蔵さま、地蔵さま、おれの団子食ったべか」 「いや、食わね、そこにある」 「いや、お前に食ってもらわねど困るなだ」 「困るて、お前、何だ」 「いや、まず困るなだ、食ってもらわねば…」 そして、嫌(や)んだ嫌んだというななを、地蔵さまの口さ団子を押込んで、 「なんだ、じさま、人んどこさ押込んでしまって…」 「まずええから、今晩はツシさ泊めてもらうから」 「おらえのツシなど、ひどいぞ。お前、こんなどこさ泊って、何すんなだ」 「いや、まず、ええから泊めてもらうぞ」 そして泊っていたところが、鬼共が来て、昨夜(ゆんべな)と同じように博奕始めた。そうしたところが、どう見てもその金のいっぱいあるの見っじど、欲しくて欲しくてたまらない。 「ああ、しょない。コケコッコー」 「なんだ、一番鶏鳴ったか、今晩は不思議だ」 そのうちに、ちいとやると、気もめてしようないもんだから、「コケコッコー」 「二番鶏、まだそんな時刻ではないようだ」 そして、じじは不思議がらっだもんだから、まず、よほど我慢しったども、どうも金見っど我慢なんね。「コケコッコー」 「なんだ、おかしいぞ、おかしいぞ、早っから鳴くわけはないんだ。おかしい、これはおかしいごんだ」 て言うんで、 「地蔵さま、地蔵さま、おかしいなぁ。今晩のお前んどこは…」 「いや、何もおかしいこと、ないべ」 て言うど、 「フンフン、人の匂いすんぜ、ああ、隠しったでないか」 て言うて、ツシさ隠っでだ慾たかりのじさは、鬼に張り出さっで、食ってしまったど。むかしどーびん。 |
(塚原名右ヱ門) |
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