4 金売り吉次吉次という炭焚きあったわけですな。そこらの部落に、それがなかなかの貧乏で、容易に糊口をぬらすことも容易でなかった。で、人はお祭りだとかお盆だとかといって休むげんども、吉次は休まんねというんだな。貧乏で炭焚いてそれを町へ持ってきては米買ったり、味噌買ったり…こういうわけだど。それで、「何とかして、おれも人並みにして、盆とか正月とか休みたいもんだ」 と。そうすっど、それがなかなか思うようにかなわないと、こういうわけだ。 「おれには貧乏というものは喰付きもんだ。何とかしておれも盆とかお祭りには休みたいもんだ」 と念願しても、なかなか休まんね。そして吉次はまずまず出来上りの炭焚いて町にもってきてやったんだな。とにかく吉次がそうやっているもんだから、あるとき、見たこともないような年寄りが現われて、 「吉次、お前はよく人の休むときも休まねで稼いだもんだ。こんどおれは、お前は稼がなくともええようにしてやる」 と、こう言うんだそうだ。ところが吉次は、 「そんな有難いことだったら、どうか教えてくれ」 「そうか」 と。そうしてある時、相変らず炭焚いてあげましょうと思ったら、炭さっぱりなかったど。 「さぁ、これは大変なことした。あんな見も知らないじさまの話など、うつつ抜かして聞いたから、罰当った。大変なことした。あんなこと聞かねばええがった。聞いてしまってはぁ、こんどこれからは馬鹿話聞くまい」 と思って、その釜あけだって。炭、さっぱりない、困ったことした。いやいや困った、困った。こんどあんな者のいうこと聞くまいと思った。ところが、こう底の方見たところが、何か光っているど。吉次は、 「炭、さっぱりないのに、何か光っているもの見える。これ、おかしなもんだ」 と思って、まず、金(かね)の棒で引っかけて出したど。そしたら光った金の玉だ。 「いや、これは大したもんだ」 と思うような、 「しかし、こんなもの誰か買ってくれる人あらば、よかろうども、もし買ってくれないことにせえば、こんなもの持ってだって仕様ない。まず、これは町に持って行って、町の旦那さまどこさ行って聞いてみる」 と言って町へ持ってきた。そしてその旦那さまさ、 「旦那さま、旦那さま、こんなもの、おれ、炭焚いたどころ、炭さっぱり無いでこんなもの一つ光ってだ。旦那さま、これ買ってもらわんねが」 こういうた。 「どれ、持ってきてみれ」 そして見たところが、金の玉。 「いや、これは吉次、大したもんだ。買うも買わねもあったもんでない。お前は明日から炭焼き止めたらええ」 「いや、旦那さま、おれぁ、炭焼きやめられれば、食(か)れません」 「いや、食れるも食(か)んないも、いや、その玉一つあれば、お前、家も建てれば、一生唯いて食れるようになる」 と言って、それを買ってもらって、それから吉次はだんだん近隣にもないような長者になったど。 |
(田村三郎) |
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