1 狐むかし

 むかしあったけど。
 賽の神に、おさん狐住んでで、晩方通る、嫌 (や) んだ嫌んだ言うてだどこあったけど。そしたらそこ、ある偉ぶらしたいような若衆いて、そしてそこさええ空に連 (せ) て行ったば、狐ええあんばいに昼休みしったずも。橋のたもとさ。
「これは、狐の畜生、おさん狐眠ってだ。みんなば化かすていうから、おれ、いたずらしてみんべ」
 と思って、長い棒持って行って、尻尾つついだずも。ほうしたら、おさん狐魂消て跳ね上がってはぁ、その上のアブラコ山さはぁ…。
「いつかしゃ、返報かえしすっから憶えていろ」
 て、跳んで行ったど。ほうしてはぁ、
「あの畜生ば、おれ、追払った」
 なて喜んで、そして下叶水の若衆であったそうだ。
「大石沢さ行って用達したて早く来 (こ) られっから、早く行って来んべ、晩方なっどまたあの狐、出はっど悪いから…」
 て、いそいで用達しして来たど。そしてこんど、賽の神さ来たば、与惣治という人の家あったなだな。おどっつぁとおっかさといた家…。
「なんだか、あそこの家さ、いまちいとなったば、まだ暗くなる時間でもないども、暗くなって来たし、そこの家から提灯借りて行 (い) んかなぁ」
 と思って寄ったど。そしたば、
「提灯も貸すども、おらえの婆さ、腹病 (や) め、腹病めるて苦しんでいたから、おれ、親類の家さ行って、誰か頼んで来っから、一時 (いっとき) 留守居していてもらいたい」
 と頼まっだずも。「嫌 (や) んだ」とも言わんねから、一時留守居しったど。そしたら病人は、「叶水のあんつぁ」て、寝床から細い手出したずも。
「いまとこっちゃきて、おれば揉んで呉 (く) ろ」
 なて。
「いやいや、これはなんだか、おれ一人になって、あの人、留守居の人帰ってこないうちに死んだら、大変だ」
 と思って。また、
「叶水のあんつぁ、ここ切ないから、揉んで呉ろ」
 なて、細い手、また出して寄越すずも。「恐っかない!」て引込んだど。そしたば、その拍子にザブンと川さ落ちてしまったずもの。橋から…。
 家だと思っていたなは、橋のたもとであったど。そしたば、川さ落ちたば、
「さっきだの敵 (かたき) 、いまとった、おれはおさん狐だ」
 と、薮さ逃げて行ったけど。んだから、狐て油断してかまわんねもんだけど。むかしとーびん。
(高橋しのぶ)
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