10 正直な勢九郎
むかし勢九郎という、少し賢こくもないような人だと思って、みんなからかうような考えで毎日薪とって、親を養ってだど。親一人だったげんども、養っていたど。
そしてある時、道普請でいっぱい人ぁいたどこ、頭まで背負うように、背負って町さ売りに行くど、
「ああ、勢九郎、勢九郎、薪とってきたな。おれどこさ売んねぇか、そいつ町さ背負って行くよりええぐないか、三文で売んねぇか、一束一文ずつ…」
「ありがたいごんだ、確かに、町さ行ったたて、夕方まで掛って売んなねかもしんねぇから、買っておくやっこんだら売る」
て言うて、そこで途中で売ったそうだ。そうすっじど、一人の人が、
「そんな馬鹿な話ざぁない、あがえに難儀してとって、親養ってる。そがなことざぁあるもんでないから…」
て思って、勢九郎どこさ、
「おれも手伝うから、そんなことしてはなんね。一つあの野郎べらどこさ、おれどこ、そげな馬鹿にして、て言え」
ていうことで、行ったど。
「いやいや、買っておくやるもの、おれぁ唯、山から採って来たなだ。そがえなこと、三文でお茶も買われるし、米も今日んな買われるし、たくさんだから今日のことは…」
て言うと平気で行ったど。馬鹿というものは困ったもんだなぁと、加勢に行った人は言うたって…。そんで正直者で勢九郎のようだて言うて、みんな親孝行なほでに、おかたも来たし、子どももええな持ったそうだ。そういう話になったもんだから、殿さま聞いて家来連(せ)てきてみたところが、貧しい家で蓆のノレンなど掛けたところさ行ったらば、魂消て、殿さま行かれて何になっかと思って、おっかさと二人はまず礼釈して、
「お前は親孝行してるという話だから、食うだけの米を与えるように来たどこだ」
て、こういう風に言わっだど。そうすっど、
「いやいや、そがえにして頂く理由はない。働くことは働かんなねんだし、親さ孝行なて言うたたて、ただ進ぜて(食を進ぜて)、こうしてるだけだから、そげなこと頂くことはできない」
て言うもんで、とうとうもらうということ言わねでいやったど。こう見たところが枕下(さ)がっていたど。そうして「これは何だ」て言うたところが。「親の頭さもしぶっつかって、足なの掛けっど悪いから、寝床をたたんだどき、枕をちゃんと上げておくのだ」て、それくらい尊ぶ親を感心して、こんど殿さまはみんなどこの山さ入って薪とって決してとがめないことと言っておぐやったどし、「親に望むものはないか」と勢九郎に言うど、
「おれぁ、本山さお詣りしたいげんども、年取ったほでに行かんねんだしなぁ」
て、こう言うたど。
「いや、かなわせる。かなわせる。おれぁそれだけの銭稼いで、篭でも何でもある」
「いや、この身分で篭さのったなんて、いらんね」
なて、親も…。そうして十三里の道、背負って行ったど。そいつ感心してええ石塔建てて呉(け)たど。とーびんと。
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