2 下男が聟

 むかしあったけどなぁ。山の中に、学問なんざぁないげんども、あの辺りで何か拾って、字を見て、
「これは…。おらだこういう字だって憶えたいな」
 て思って、あるとき考えて、
「こんな山の中に一人いるより、どこさか出はって行くじど、学問だてされんべなぁ」
 て、山の中から出はって高い山さのぼったり、低いどこさ降(お)ちたりして、まず里さ出きて、あるどこに、
「とんな、何ていう家だべ」
「あいつぁ、本屋だ」て、「本屋と書いてある」
「あら、ほんじゃ、おれぁ銭ためてあそこの本屋から本買ってみたいなぁ」
 ていうような気持ちで、そしてあるどこさ行ったところが、
「ここらにまず奉公人要っどこないがんべか」
「どこにもある」
「どこだ」
 て言うたば、
「山の中から出てきたなだから…」て言うど、
「山の中なの、使うどこなの、あっから…」て言わっで、
「大きな家あっからそこさ行ってみろ。ここからこう行って、こういう風に曲ってここさ行くじど…」
 て言わっで行ったところぁ、大きな家だけど。
「あまりええ、あまりええ、おら家でなの屋敷掃除してもらわれっから」
 そうしてそこで、まず働いて、
「おれぁ、あまりええ身成などしたりしないで、何とかして同じ着物きて、ええ男になどなんねえで、そうして働いて学問でも何でも長く置いてもらって」
 て思って、そして夜になっど、
「おっつぁん、おっつぁん、釜の火焚いて呉ろ」
 なて言わっで、釜の火を焚いたり、木を割ったりしていたそうだ。そして娘が夜小便に起きたところぁ、向うの小屋の方で、じじいの居間としったどこに灯(あか)しぁ毎晩げあっから、仲間どもは不思議なものだと思ってそこさ行って窓開けてみたところが、とんでもない、じじいでなくて若い男だ。そしてちゃんとして自分が本なの持(たが)って勉強している姿見たど。
「なえだべまず、不思議に化け来たであんまえしなぁ」
 朝げに起きたとこ見っじど、本当にじさまが腰なの少し曲げて働き出はって来る。毎晩げそうしてみでっど、そういうもんだ、奇態なもんだなぁと思っているうちに、こんどは娘は、
「変な奉公人いる」
 なて、「とんでもない、まず。とても何なんだか、かえなんだか好いた男だなぁ」
 て、こう思ったごんだど。そうしたればだんだんに飯は食いたくない、何だか一人娘なもんだから、お医者さまに掛けて見だたて、分んね。何としたらええんだか、まず占い師に占ってみてもらえという人の話きいたところぁ、
「こいつぁ恋のわずらいというもんだ。んだから家に使っている者にええな、いないか」
 て、こう言わっじゃって。
「居ねなぁ」
 て言うど、
「まず、その、誰か好きな者の、ものを取って食ったらば、それは好きな男なんだし、そういう風にしてみろ」
 て、まず、こういう風な話聞いてきて、
「嘘だか本当だか、ここにええなの居ねようだげんども、みんなに水でも持って行って飲ませてもらってみろ。そしてみんなさ、お前だ水飲みだいと言うごんだら、まず聟にでももらわんなねんだし…」
 なて、オドケ話言ったところが、みんな喜んで、顔面(つら)なの洗ったり何かして、
「おじょうさま、水あがやんねが」
「のまね」
 誰ぁ行っても、使ってだ男さみなやってみだげんども飲まね。たった一人、じい残ってだ。「じんつぁがぁ」ていうようなもの…。そうしてこんど、「何だ」なて行ったところが、
「お前、おらえの娘さ水持って行ってみて呉ろ」
「いやもったいない、あがえな、おれなど上がらんね」
「いいから持って行ってみて呉(く)ろ」
 なて言わっで持って行ったところが、にっこり笑って、
「うまいこと、いま一杯飲みたい」
 て言わっじゃごんだど。
「何だ」
 不思議千万に思って、そうしてこんど、
「そういう風に思い掛けっだなを、聟にもらうと家も栄えるし」
 て言わっだもんだから、何とも仕様ないんだし、もらう段にしたど。そしたればいよいよ着物でも拵って着せて、そうして見んなねごで、て言わっでいよいよ聟の段となったところが、こんど紋付など着せて、袴なの履かせて、裃なの着せて、扇なのささせてみたらば、とんなええ男だごんだずもの。まずムカサリもええげんども聟も負けねぐええ男だずもの。そうして睦まじくそこで繁盛したど。どーびんと。
 んだからあまり形式ばり、上辺ばり飾っねったても、心ばりきれいだど、いつか磨かれることあっから、働いて真面目になっていなくてなんね。どーびんと。

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