1 狐のお産むかしあったけど。うんと、まいどは子産(な)させといったもんだな。その子産(な)させの上手な名人でどこさもここさも広まって、あの人難産だなんていうじど、どこさでも呼ばらっで、その人さえも手掛けっじど、じきに産される人いだったど。そしたところが、ある晩、 「こんばんは、難産しったほでに、早く願って来いて言わっで、篭もって来たから、長者さまで…」 「どこだっし、長者さまって…」 「三リン村からだ」 「三リン村って、どこらだ」 「ええから早くのって呉ろ」 て言わっで、 「今、腹痛(や)みしったほでに」 て言わっっじゃもんだから、 「行くと分かるほでに篭さのれ」 て言わっで行ったそうだ。そうしたらばヤッサヤッサと声掛けて行って、夜なもんだから、どこなんつぁ見えなくて行ったところが、 「早う降(お)ちて、ここから入って行って呉ろ」 て、長い廊下行って、まず行ったら、なんだって人の泣き声でないようにして泣いっだけど。なんぼ切ないんだか…。 「待ちろ、待ちろ、おれぁじきに産させて呉れっから…」 なて言うことで入って行って産させたど。そしたばこんど、「後始末はええから」なて言わっで、「さぁ一服」なて言わっでお茶飲んで、「さぁ饅頭上がっておくやい」なて、大きな饅頭、「そんでも、おれぁ腹くっちいしすっから家さ早く帰んなねから」て、紙、たもとから出してしまって、 「ほんじゃ、少しばりだげんど…」 なて、銭いっぱい、ジャクジャクて風呂敷さもらって喜んでまたその篭さのって帰って来たところぁ、寝たいからまず衣裳着替えて寝たところが、朝げに起きてみたれば、何だか掛ってだ鏡見たれば、顔面なていうど真黒になっている、髪なていうじど、みんな埃ぁついて、とんでもない様子、 「なんだべ、まず、どこ歩いて来たじだべなぁ」 と思って、そしてこんど夕(ゆん)べな着てった衣裳、なじょなってだと思って行ってみたて。たもとさ入(い)っできた饅頭は馬ン糞だったけど。 「いやいや、これは狐に騙さっじゃ」 そうしていっぱいもらって来た金を喜んで床の間に上げっだの見たところが、シダミざくざくと入っていだっけど。 「いや、狐に騙さっじゃざぁ、このごんだ。しかしおれも有名になったじだごで。狐までああして連(せ)て行って呉たもの」 て、その人喜んだど。むかしとーびん。 |
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