43 大黒さまの話(1)股大根むかしよ、大黒さまという人は、そこら騒いで歩くうちに、大根洗いしった人がいだったど。そうすっどそん時、 「ねえさん、ねえさん、その大根一本、おれにゆずって呉んねえか」 て言うたど。そしたら、 「これは旦那さまのもんだから、おれのもんでないから、数減っどわれから、進ぜ申さんね」 て言うたど。そしたば、「そうか」て、大黒さま行ったど。 と、洗っているうちに、股大根が出てきたど。そうすっどその股大根半分やれば、こいつ半分あれば、本数減んねがら…て、その大根持って追いかけだんだど。そしたらなんぼ呼ばっても振り向かねもんだから、昼間豆煎りもらったな、帯の間さはさんでいたな味付けて、うしろからぶっつけだんだど。そうすっどちょいと振り向いだって。と、大黒さまなんて知しゃねげんど、 「こいつ、本数減んねから、半分にして百本なら百本にして、本数は減んねがら、上げ申すから」 て進ぜたど。そしたら、 「そうか、どうもありがとう、お前は一生しあわせにするぞ」 て、その人が言うて行ったんだど。 (2)股 大 根 その、五升餅に、大黒さまという人は五升餅食うど。んで、 「あいつ、招(よ)ばって大根売っどこ、みな封じて、大根買わんねようにして食(か)せんべ」 て、余の神さま、まず招んで食せんべとお使いしたど。五升餅食せっから来いて。そうすっど行ったってよ。そして八百屋、八百屋さ、すっかり、「今日は一日大根売んねように」と。そして行って、どこさ廻ってもそういう風に触れになってるもんだから、どこさ廻っても買わんねがったど。そうすっどずうっと騒いでいるうちに、大根洗いしった人いだって。 「その一本、大根、おれにゆずって呉(け)ねが」 そして、「ええどこでない」て譲ってもらったって。そして知(し)しゃんぷりして招ばっで行ったんだど。そうすっどみんな、ほら、 「今日は大黒さま、五升餅食せらっじゃたて、食んねぞ」 て。そして見っだってよ。なんぼ食うかよ。そうすっじど、タモトから大根ちょろっと出して齧って食い、またちょろっと出して齧って食い、五升餅、つるっと食ったんだど。そうすっどはぁ、 「何したたて、大黒さまに敵わね」 ていうことになったんだど。 (3)米三俵の上の大黒さま 大黒さまという人は、米三俵の上さあがっていやんべ。あれが大黒さまという人は、うんと貧乏な人だったど。元はよ。そして今とちがって、まいどはスルスで挽いたもんだべ、米は…。そういうところさ頼まっで行って、ありだげボロ衣裳きて、籾が間さ、こう嵌まんのだど。跳ねたのなの、そいつを家さ来て、蓆さほろって、そうして貯めた米が三俵たまったんだど。そうすっど、その上さあがって、大黒さまざぁ、頭巾、さっかけにかぶっていんべ。そいつは決して上は見んな、自分より下の人見て、上は見んな、上を見っどきりぁないから、見ないで、自分よりまだまだひどい人、なんぼもいるということで、下見んなだ。下を見て、決して上見んなと、そういう理屈で頭巾さっかけにかぶって米の上さちゃんと、稼いだ米の上さあがっていやんなだど。んだから、人ぁこうしったから、ああしったから言うたって、自分よりまだまだ下の人、ひどい人いると思って決して見んなて言うのだど。 |
(鈴木よし江) |
>>置賜平野の昔話2 目次へ |