40 屁たれ嫁むかし、あるところに、ええ、気立てもええ働く娘だげんどもな、どこさ行っても嫁さいらんねのよ、何(な)していらんねというど、あんまり屁出るもんだからいらんね。んだげんどもあるどこさ貰わって行った。気立てええし、働くし、うんと気に入りだ。んだげんども、だんだん顔が蒼くなってしまう。そして顔が蒼くなってしまうもんだから、「なじょなわけだ、まず、嫁っこ、そがな蒼くなるなんて、どこか悪いでないか、まず」 て言うたらば、 「どこも悪くないげんど」 「心配ごとあっか」 「心配ごともないのだ」 「ほんじゃまず、そがえに青くなって、体悪くなっていることないべ、なじょなわけだ」 「おれは、こういう風に、屁が出るなよ…」 「屁ぐらい、遠慮してっことないべ、屁、遠慮なてないから、出るだけたれろ」 「よかんべがっし、おっかさん」 「ええどこでないから、たれろ」 「ほんじゃ、まず、おっかさん、その炉(ろ)縁(ぶち)さおさえてておくやい」 「また炉縁なて、なじょな屁だか知(し)しゃねげんど、炉縁なてがぁ」 なているうちに、出る屁なもんだから、たっじゃんだど。ブウブウ、体ゆすり上げらっじゃど、ブウブウ。 さて、こんど炉縁なてて言うたて、押えねでいらんね。とんでもなくブウブウ、ブウブウと出たもんだから、そのおっかさん、フアフア、フアフア火棚の上まで上げらっでしまったど。そしてはぁ、こんどは屁あんまり大きいのたれらっで、暴風みたいな屁なんだ。 そこさ六部はカランカラン、カランカランと来たんだど。そしたらその屁で吹飛ばさっで、カラカラ、カラカラ、ファフア、ファフアとなってしまって、六部など逃げて行ったし、おっかさ、こんどはぁ、裏板さ上げらっではぁ、 「屁の口とめろ、屁の口とめろ、屁の口とめろ」 て言わっでよ、おさんも切ないげんど、まず、ドウが抜けたみたいだから、やっと止めたど。そうすっど、やっぱし、んじゃ居(い)もさんねし、置きもさんねしということになったのよな。 そして次の日、風呂敷背負って、家さ帰さっだど。そして行く途中に自分の途中に、すばらしく大きい長者さまの屋敷みたいなどこさ行ったところが、若衆ぁ三間梯子で柿もきだ。大(お)っけぇ木のな。おさんがつくづくこうして見た。 「情ないもんだな、こげな柿、こげえに大騒ぎして…。おれなら屁一つでもがれるげんどな」 て言うたど。そしたれば、 「なんだ姉こ、そがえして見てねで、柿もぎ助(す)けたらええがんべ、まず」 「情ないもんだ」 「なんで、屁でもぐ。そんな馬鹿な話あんまいちゃえ、本当だか、本当にもがれっか」 「おれぁ屁一つでもがれるな。こがえなもの」 「ほんじゃ、賭しんべ、何賭けっこど」 「この木、屁一つでもいだら、祝儀を出すべ、たれられっか、本当だか」 「たれられる。ほんじゃらええか、たれっぞ 」 そしてまず出る屁耐えて来たもんだから、屁たれ始めだど。ブウーと柿の枝ゆさゆさ、三間梯子でも二間梯子でも、みなガタガタ、ガタガタ、バサバサ、バサバサとほろけてしまったど。家の中で、何大騒ぎ始まったと思って、みな家内中出てきて見たんだど。そうしたれば柿ぁ大風に吹き落とさっだみたいにバサバサ、バサバサとみな落ちてしまったんだど。そして若衆蒼くなってはぁ、こんどポカンとしたど。千両の賭したげんど、千両の銭あんまいし、本当に屁でもがっだべし、ポカェンとしたど。そしたらその家の旦那でてきて、 「何しったなや、若衆、たまげてポカェンとして…」 「屁と柿もぎの賭したなだ」 「何の賭したごんだ」 「その柿、屁一つでもいだらば千両出すていう賭したごんだ」 そしたら、旦那だまって、手代に、 「千両箱一つ持ってこい」 て、持って来らせて、そうして千両箱もらったんだど。んだから屁もお粗末にさんねもんだ。どーびんと。 |
(近きよ) |
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